餃子の街・栃木県宇都宮市が今、「紅茶の街」として沸いている。トリガーとなったのは、紅茶製造・販売のワイズティーネットワーク。2006年に市内の商店街で開業した同社は、地元の特産品を用いた「ご当地紅茶」を次々と生み出した。総務省家計調査ではランク外だった宇都宮市の紅茶消費量は、そのわずか5年後に全国1位(一世帯あたり、08~10年平均)に。空洞化した中心市街地の再生にも大きく寄与している。寂れた商店街の一画から始まった変化の波。その軌跡を、森下正・明治大学専任教授が探る。

未経験のビジネスで市街地再生に寄与

ワイズティーは、宇都宮市のオリオン通り商店街に店舗を構えています。開店した06年当時、この通りは県都の中心市街地にありながら、空洞化が著しく、“シャッター通り”化した商店街でした。

(写真左端)ワイズティーネットワーク 社長 根本泰昌氏

土地柄からして紅茶を楽しむ習慣はあまりなく、「なぜこの寂れた商店街で、紅茶の専門店なのか」と周囲から言われたそうです。それが今では、地元のみならず県外からも同社のオリジナルブレンドを買い求めに来る得意客が増加。しかも、商店街は新規の出店も増えて徐々に活気を取り戻しつつあります。

そのけん引役となった同社ですが、着目したいのは、同社の創業目的が、紅茶の製造・販売そのものよりも、地域の再生にあったことです。

創業者・根本泰昌社長の前の職場は大手製薬会社。名の知られた栄養食品を担当し、20代後半でブランドマネジャーに抜擢されたほどです。

しかし、仕事をしながら「日本の医療は世界最高レベルなのに、なぜこれほど心の病を抱えた人が多いのか」と考えていたといいます。一方、故郷の宇都宮市に帰ると、目にするのは日に日に廃れゆく商店街の姿。根本社長は、それを政治やお金では解決できない地方都市の病と捉え、「このままでは、日本の地方都市はどこも生き残れなくなる」と強い危機感を抱いていました。

起業には、社会を見る観察眼と気づきの力が大切だといわれます。心の病と地方都市の病、それは今日の日本で普遍性のある解決すべき社会課題といえますが、それを身近なもので解決したいという願いが、ワイズティー誕生の発端です。

とはいえ、根本社長は紅茶ビジネスについては未経験。前職で将来を嘱望されていた人材がその職を捨て、紅茶の消費量が少ない宇都宮に専門店を開こうというのですから、そこに並々ならぬ決意がうかがえます。