地元の生活文化を育てるという発想

単に商品を売るのではない。地域の生活文化に紅茶を根づかせる――結果として、この考え方が出店から11年を経た今日までのワイズティーの好調な業績を支えています。

開店以来、店舗で開催している紅茶教室はいつも満席。近所の小学校での講演を契機に「紅茶部」もできました。根本社長は子供たちにおいしい紅茶の淹れ方と併せ、大人ももてなせるきちんとした作法を教えています。紅茶の消費量が全国一となったことは、紅茶が宇都宮の生活文化として浸透した証しでしょう。

農業者とのコラボレーションにも熱心です。県特産の苺や梨を用いたフレーバーティーの開発から「ご当地紅茶」が生まれ、各地からも開発支援の依頼を受けています。かつては本州北限の茶どころとして知られた大田原市では、地元の農業者らとタッグを組み、耕作放棄された茶畑の復活に取り組んでいます。

これらを元請け―下請けではなくパートナーどうしの対等な関係で進めるのが、いわば根本流。インドやスリランカなど、海外産地からの仕入れでも相場よりかなり高値で買い入れていますが、それは、「安い賃金で働く現地の人々の待遇を、少しでも改善したい」との思いからです。

「社会の問題解決に何らかの寄与ができなければ、弊社に存在する価値はない」と根本社長は言い切ります。金銭的な利益より、関わる者が互いに受ける有形無形の恩恵を重んずる独特なビジネススタイル。それが共感と協力者の輪を広げ、重層的なネットワークを形成し、新たな事業を生み出す原動力となっています。

地方都市の衰退が著しい今日、その再生には地域の内外を問わず、さまざまな主体が、それぞれの特性を活かして連携し、新しい商品・サービスを生み出していくことが求められます。地方都市の空洞化する中心市街地の活性化を考えるとき、ワイズティーのようなネットワーキングやコラボレーションのスタイルは、良き参考事例になると思います。

文科大臣賞を受賞。地元への貢献で高評価
●本社所在地:栃木県宇都宮市
●従業員数:10名(パート2名含む)
●社長:根本泰昌(1974年栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮東高校、中央大学文学部卒業。97年大塚製薬入社。2005年退社、06年ワイズティー設立)
●事業内容(単独):紅茶・茶器・雑貨等の販売、ティールーム・紅茶教室の運営。16年度「青少年の体験活動推進企業表彰」文部科学大臣賞受賞。
森下 正
明治大学 政治経済学部専任教授
1965年、埼玉県生まれ。89年明治大学政治経済学部卒業。94年同大学院政治経済学研究科経済学専攻博士後期課程単位取得・退学。2005年より現職。著書に『空洞化する都市型製造業集積の未来ー革新的中小企業経営に学ぶー』ほか。
(構成=高橋盛男 撮影=石橋素幸)
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