「日本から出なければ、英語は必要ない」。それは本当か。脳科学者の茂木健一郎氏は「日本語だけでは、最先端の良質な情報に触れることができない。むしろ英語ができるだけで、世界は圧倒的に拡がる」という。イーオンの三宅義和社長が、茂木氏にそのわけを聞いた――。(第3回)

「英語は学ぶのではなく、英語を生きるのだ」

【三宅義和氏(イーオン社長)】茂木さんはよく「英語は学ぶのではなく、英語を生きるのだ」と言われていますね。詳しく教えていただけますか。

【茂木健一郎氏(脳科学者)】ようは経済的にも文化的にもグローバル化がこれだけすすんだわけですから、グローバルの方で生きていくのはもはや当たり前のことで、そうすると英語は必須条件になりますよね、という話です。

脳科学者の茂木健一郎氏

例えば、今の時代って、英語ができないと最先端の良質な情報に触れられないんですよね。僕は2011年からずっとTEDという会議に行き続けています。そこは世界の最先端の専門家が情報を持ち寄る場なんですね。もちろん使われるのは英語です。TEDで取り上げられる話題はみんなが知っていて当たり前みたいな情報ばかりなので、僕からすれば空気を吸いに行くみたいな感覚なんですね。

もしくは、アルファベット傘下で自動運転車を開発しているWaymo(ウェイモ)という企業があります。WaymoはときどきYouTube(ユーチューブ)に動画を出して「いまグーグルの自動運転はここまで来ていますよ」と解説してくれます。日本のマスコミに喧嘩を売るつもりはないんですけど、日本のテレビ局がつくる「自動運転のいま」みたいな特番より、はるかに高次のレベルのことをはるかに短い動画で知ることできます。そのYouTube動画は誰も日本語に訳してくれないですけど、それを知らないと話にならない職種の人って少なくないわけですね。

似た話でいうとAI(人工知能)研究についても、書店にいくとAI関連の本がたくさん並んでいます。でもAIの研究者が学会で発表した論文を読むとか、IBMワトソンの研究チームがときどき上げている動画を見るほうが、よほど最先端の内容で、しかも早く情報を仕入れられるんですよ。

だから、英語ができないともう話にならないのです。

最新情報は英語でしか手に入らない

【三宅】「英語は文化というより、もはや文明である」とも言われていますね。

【茂木】よくご存知ですね(笑)。

昔は英語と言うと英文学を学ぶとかアメリカ文学を学ぶ手段として英語があるみたいな雰囲気があったけど、いまや英文学もアメリカ文学もはっきり言ってローカルな文学ですよね。例えばイギリスのブッカー賞。どんな本が受賞したのかなんて日本人はほとんど知りません。もちろん読みたければ読めばいいけど、別に読まなくても生きていくことができますよね。

イーオン社長の三宅義和氏

でも、いま言ったAIとか、自動運転とか、あるいはイーロン・マスクがスペースXでやっている宇宙開発の最新の動画などもどんどんYouTubeに上がりますけど、これはもう文明の話ですよね。趣味の問題ではなくて明日の世界の話。こういう最新情報は英語でしか手に入りません。

あと、コンテンツもグローバル化していますよね。例えば、この間、学会に参加するためにアメリカのサンディエゴに行ったんですけど、Netflix(ネットフリックス)で『アメリカンバンドル』というコメディ風のドキュメンタリーを日本で途中まで見ていたので、出張中にも見られるかなと思って現地のネットで繋いでみたら、普通に視聴できたんですね。Netflixは年間1兆円の制作費を注いでいるわけですけど、もうグローバルで同じコンテンツを提供しているんです。

アニメとか漫画とか本も、世界的に注目を集めるコンテンツは最初からグローバルを前提にしていますよね。「進撃の巨人」の実写版とか。