世界が驚嘆「勝てなくても辞めない相撲取り」

【茂木】間違いありません。実は僕、初めて英語で書いた本を2017年、ロンドンの出版社から出せたのですけど、テーマは「生きがい」です(“The Little Book of Ikigai:The secret Japanese way to live a happy and long life”)。論文は書いていましたけど、本としては初めてで。

茂木氏「英語で書いた初の本を出版しました」

先日もCNNのニュースが「ikigai」を取り上げていて、日本人の「生きがい」「人生の目的」みたいなものに世界から注目が集まっているんです。

本に書いたことですけど、例えば大相撲の世界では、相撲取りはどんなに弱くても辞めなくてもいいと。服部桜という人がいて、今まで2勝しかしていなくてずっと序の口です。朝8時半に相撲を取って、負ける。入門して何年も経つのですけど、身体は細い。でも引退勧告がない。それでも日本人はそれを生きがいにして、みたいなことを書くと向こうの人はびっくりするんです。「おお、そうなのかぁ」みたいな。

そういうことですら日本人はちゃんと外国に説明できていないから、なおさらもったいないなと思うんですよ。英語力も課題ですけど、それ以前にもっと自信を持ってほしい。今まで日本は輸入大国で、大学の先生も、輸入業者と言ったら失礼だけど、向こうのものを日本語に翻訳することで商売をしてきたのだけど、これからは輸出もしないといけないと思うんですよ。

日本文化の輸出というのはアニメや漫画から始まったのだけど、今、ほかのところにも注目が集まって来ているので、日本人はもっとグローバルな視点をもって、世界の共通言語である英語を通して文化を輸出するという意識を強めていくことはすごく大事なことだと思います。

僕自身も今後は英語の本をもっと書いていきたいと思っています。

英語を学ばなければ、地球人にはなれない

【三宅】なるほど。いずれにせよグローバルな視点を持つことが、英語学習という文脈においても大きな課題ということになりそうですね。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【茂木】まあ、日本も自然にそうなっていくとは思うんですけどね。先ほど竜馬の話をしましたけど、竜馬の頃はそれこそ薩摩、長州、土佐という藩という意識はあったけど、日本人という意識はありませんでした。それって今の国家と地球の関係に似ていますよね。今後はおそらく世界中のいたるところ徐々に地球人という意識をもった人が増えてくる時代だと思うんですよ。

国際宇宙ステーションに乗っている宇宙飛行士の方は、最初のうちは例えばフランス人の宇宙飛行士はフランスが見えてくるとすごく喜んで「あ、フランスだ」と言っているらしいです。日本人は「日本が見えた」と喜んでいる。でも国際宇宙ステーションは90分で地球を1周する速さでぐるぐる回っているので、そのうち国がどうこうという話ではなく、地球全体がバーっと見えてくるのだそうです。すると、その瞬間に意識がガラッと変わるというのですよ。フランス人が地球人になる。

今のところ宇宙に行った人は700人ぐらいしかいません。これが今後、それこそZOZO(ゾゾ)の前澤社長も行かれるわけですけど、宇宙から地球を見た人が1000人、1万人、10万人と増えてくると、だんだん人類社会は変わっていくと思うのです。

それはきれい事で言っているのではなく、経済とか文化の実態はもうすでにグローバルになっていますからね。なので、英語はその地球人の共通言語だと思うので、地球人になるためにはやはり英語が必要なのだろうと強く思います。

【三宅】今回はありがとうございました。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『結果を出せる人の脳の習慣』(廣済堂出版)など著書多数。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
(構成=郷 和貴 撮影=原 貴彦)
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