前線からさらに離れ自軍が支配する安全地帯に戻れば、ゆっくりと眠る時間が与えられます。それでもまだ体が警戒心を解かず、かえって目がさえてしまう場合があります。私がよくやっていた儀式が、甘いものを口に入れることです。チョコレートを一かけら食べるだけで緊張が緩みます。

アフガニスタンで初めて戦闘した際は「恐怖から逃れようと必死だった」。

水のシャワーを浴びるのもリラックスできる方法です。前線では水浴びができません。ジャングルや岩場を歩き回り、汗と泥や砂ぼこりで汚れた体を洗い流すと、脳が「ここは安全な場所だ」と判断し、眠くなってきます。また、女性の顔を見るときも緊張が解けます。女性がいるのは安全のシグナルです。それで、ここは安全だと確認するためだと言い訳し、よく女の子がいる店に行ったものです(笑)。

私が、傭兵をやめるきっかけも睡眠と関係しています。ジャングルの中を若い兵たちと何日も歩き回っていて、5~6日たったとき、若い兵が足取りを緩めたり、少し先の丘で待っていたりと私に配慮しているのに気づいたのです。

自分では若いときのように一晩寝れば体力が100%戻ると思っていました。ところが90%しか戻っていなかった。ジャングルの中で木に寄り掛かって1、2分寝た後に、昔のようなスッキリ感がなくなってしまった。若い仲間の命を私のせいで危険にさらすわけにはいきません。そのとき引退を決意しました。

傭兵生活をやめ、すでに10年以上になります。今はいつでも枕を高くして眠ることができます。しかし傭兵時代の感覚がどこかに残っているようです。暗闇の中だと神経が張り詰めてしまい、何かカサッと音がするとすぐに目が覚めてしまいます。だから眠るときは部屋の明かりをつけたまま、テレビもつけっぱなしです。静けさが漂う暗闇はジャングルの中を思い起こしてしまいます。夜中でも煌々と明かりがともり、テレビから途切れなく音が流れる。そんな環境のほうが私にとってはリラックスして眠りにつけるのです。

▼こんなにハードだった!
・最前線では80メートル先で敵が銃を持ち、待ち構えていることも
・敵に追われ、1週間不眠不休で逃げ続けた
・休憩するときも30キロ近い装備を身に着けたまま