「一発当てる」ベンチャースピリットの強い業界
居酒屋業界の歴史は、常に適者生存、弱肉強食の歴史であった。居酒屋業界は浮き沈みの激しい業界だ。一発、ヒット業態を開発し、3~5年で30~50店舗も展開すれば、株式上場も夢ではなくなってくる。
だが、失敗して尾羽打ち枯らすケースも多い。外食産業はIT産業と並んで、ベンチャースピリットが発揮できる世界だ。そのためリスクは高くても、野心に燃えて若い創業者たちが次々に参入してくる。ときには怪物のような創業者が出現し、革新的なヒット業態を開発したり、革命的なヒット商品を生みだしたりして、居酒屋市場に大旋風を巻き起こしてきた。
そして2010年代以降、居酒屋市場の構造が総合型居酒屋から専門店型居酒屋へと大きく変わるなかで、新旧さまざまな居酒屋チェーンは、時代に対応する新業態の開発競争にしのぎを削っている。そのなかでも注目を集める居酒屋ブランド「串カツ田中」「晩杯屋」に注目してみよう。
大阪の串カツを全国区にする「串カツ田中」
『日経MJ』の「飲食業2017年度ランキング」で、「串カツ田中」は「店舗売上高伸ビ率」で前年度比39.2%を記録し、第3位へ躍進した。社長の貫啓二は「串カツを日本を代表する食文化にする」と、長期的に「国内1000店舗体制」を掲げて出店ペースを上げている。
串カツは、肉や魚介類、野菜などを切って串に刺し、衣をまぶして揚げた料理だ。大阪ではソウルフードとして定着しているが、焼き鳥のように全国的な食文化としては根づいておらず、関西以外では専門店も少なかった。競争が激しい居酒屋業界において、「串カツに特化した居酒屋」は未開拓であった。貫は、居酒屋市場に「串カツ田中」旋風を巻き起こし、全国に「2度漬け禁止」といった串カツ文化が広めている。
貫は71年生まれ。大阪府三島郡出身。高校卒業後、トヨタ運送に就職するも、27歳で脱サラし、借金をしてショットバーを始めた。
「店は鳴かず飛ばず。あの時代に店によく通ってきたのが、現在副社長を務める田中洋江です。広告代理店に勤務していたので、飲食業界に明るく人脈を持っていて、いろいろアドバイスしてくれました。アルバイトの第1号として採用しました」
貫は田中の協力を得て、01年心斎橋でデザイナーズレストランを開店し、話題を呼ぶと、03年には表参道に京懐石の高級店を開店した。