▼ケーススタディ(2)
母親を介護した次男夫婦が情報開示を拒み、協議が泥沼化
記録をとり、情報共有して争いを回避
母は生前、亡き父が創業した会社を長男、次男とともに継承。経営に携わった。そして亡くなる5年前から要介護状態となり、次男の自宅で介護を受けて死亡。母を主に介護していたのは次男の妻だ。
死後に行われた遺産分割協議で、次男は介護に対する寄与分を主張。長男と長女は、次男に介護費用の開示を求めたが、次男は応じなかった。一方、母名義の預金がわずかしか残っていなかったため、長男と長女は「介護費用を口実に次男が使い込んだのでは?」と疑った。
また、母が次男の妻に1000万円の生前贈与をしていたことが判明。贈与時に母は要介護状態であったため、「贈与は本人の意思で行われたのか?」と長男長女は疑いを深めた。さらに、長女が「長男と次男は母の生前に多額の支援を受けているはずだ」と主張し、協議は泥沼化した。
どうすれば問題を最小限にできたのだろうか。まず介護の面では、母の在宅介護が始まった時点で、兄弟姉妹全員で役割分担や介護費用の負担などについて、十分な話し合いをするべきだった。さらにこのケースでは、次男が介護費用を開示しなかったことが、問題を深刻化させている。
「出納記録は無用な相続争いを回避するためにも重要です。次男夫婦はオムツ代や病院への交通費、薬代など日々の細々とした出費など、介護費用を記録しておくべきでした。ただし、介護をしながら毎日記録をつけるのは簡単ではない、と他の兄弟は理解しなければなりません」(伊藤氏)
伊藤氏が勧めるのは、情報を共有するメモだ。親が施設などに入所している場合は、小さなノートを置いて、親の食欲の状態や顔色、看護師から聞いたことなど、訪問した人は簡単なメモを残しておく。紙ではなくて、SNSを使って情報共有してもいい。どんな形でもとにかくメモを残しておくと、話し合いの際、重要な記録になる。
要介護者である被相続人の生前贈与はどうだったのか。介護される側にしてみれば、相続権の有無に関係なく、特定の者にお金を残したいと考える場合もあるだろう。
「そのようなときは意思表示ができれば、遺産分割協議より優先される遺言書を書くといいでしょう。また生命保険金は遺産分割の対象にならないため、お金を渡したい相手を保険金の受取人にしておく、という方法もあります。また要介護状態の人が生前贈与すると、後々、本人の意思の有無を疑われることもある。贈与契約書を作り、意思表示能力があることを証明する医師の診断書をつけることをお勧めします」(同)
・特定の人に財産を渡したければ遺言書を書く。
・介護費用の出納記録をつける。
・介護記録をとり、情報を共有する。
弁護士
ホームヘルパー2級。介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。著書に『認知症になった親の財産と生活を守る12のメソッド』(日本法令)など多数。
伊藤久夫
名古屋市社会福祉協議会に勤務後、生命保険会社にて24年勤務、その後「ライフテーブル」を創業し、現在代表取締役。相続学校なごや校長。一般社団法人日本相続学会会長。