▼ケーススタディ(1)
認知症の母親を15年間介護した妹vs介護に協力しなかった姉
介護と相続を交換条件にするのは危険
長女と次女の母親が認知症を発症。長女は遠方に嫁いでいたため、独身の次女が母親と同居し、15年間、仕事を続けながら在宅介護を行った。次女の介護負担は重く、途中何度も長女に協力を要請。しかし長女は応じず、「相続のときに次女が寄与分を主張して、それで調整すればいい」と言っていた。
そして母親が亡くなると、長女は「寄与分の額は専門家の裁定をもとに決めたい」と、弁護士に相談。弁護士は介護記録などをもとに、「次女が行ってきたのは仕事をしながらの介護。寄与分が認められるものではない」という見解を示し、協議は紛糾した。
このケースについて、日本相続学会会長の伊藤久夫氏は、「親の介護負担が1人に偏り、その偏りを遺産分割で精算しようとしたことがよくなかった」と指摘する。
「民法では、親の介護は扶養義務に含まれ、扶養義務者は直径血族と兄弟姉妹にあります。そして扶養義務と相続は法律において関連がありません。ただし扶養義務を超える『特別な寄与』があった場合だけ、+αの相続分を要求でき、介護と相続がつながります。親の介護が扶養義務の範疇なのか、それを超える『特別な寄与』なのか――。それが確定しない時点で、長女が『寄与分で調整すればいい』と、介護と相続を交換条件にしたことが、問題の源でした。そもそも相続財産がマイナスだった場合、介護を精算することはできないのです」(伊藤氏)
また、両者の納得するポイントも異なっていた。論理的に納得したいタイプで、法律に則って寄与分を決めようとした長女。対して次女は感情でも納得したいタイプで、感謝の言葉がまずほしかった。2人が納得するポイントを見つけるのは、至難の業だ。
「争いを避けるために必要だったのは、『相続が均分相続なら、介護も均分介護』という考え方。介護は家族の誰か1人がすべて背負いがちになりますが、この場合の扶養義務は2人の姉妹にあります。まずはそれを自覚し、介護がスタートした時点で、今後の介護の方針と互いの役割分担を話し合うべきでした。そこを省略し、相続で精算しようとしたために、ボタンの掛け違いが起きたのでしょう」(同)
親の介護負担は、特定の子に偏ってしまうことが多いので、バランスを整えるよう努力する必要がある。そして介護はいつまで続くかわからず、状況は日々変わっていく。
「最初の話し合いだけでなく、途中のメンテナンスも大事。できれば3カ月に1度くらいのペースで兄弟姉妹がコミュニケーションをとり、問題点を調整するべきです」(同)
・介護と相続を交換条件にしない。
・親の介護は子ども全員で均分。互いに労る。
・親の介護が始まったら、子ども全員で相談。