ヒートショックの怖さ

箱根駅伝は正月の2日3日に行われ、非常に寒い季節です。スタートは8時ですが、ゴールは午後になり少し気温も上がります。そうは言っても、室内でテレビ観戦している環境は暖かですが、ゴールを見届けてその気になって屋外に出ると急激に寒気にさらされます。こうした温度差はヒートショックと呼ばれる血圧の急な変化から脳卒中や心筋梗塞を引き起こすことが知られています。

実際、甲府盆地にある6病院での急性心筋梗塞症の発生時期を検討した沢登と小森の研究(※2)では、急性心筋梗塞症は気温の低い冬の時期に多く、夏でも最低気温の低い日に多かったことが報告されています。従って、急な温度変化に身をさらすこと自体が大いに危険であることがわかります。

(※2)沢登貴雄、小森貞嘉:季節の心疾患、特に急性心筋梗塞症への影響.地球環境8(2):193-200,2003.

前述のように、ランニング習慣のある人たちでもラストスパートで頑張った時に倒れているわけですが、ランニング習慣がなく、箱根駅伝を見て急に走りだした人ではもっと高い負荷が身体、特に心臓に加わっていることは明らかです。

特に、鍛えているランナーになった気分で最初からスピードを上げて走れば、心筋への血液供給は間に合わなくなってしまいます。中高年で、高血圧や脂質異常症などが指摘されている人では、ある意味自殺行為にもなってしまいます。

まずはウォーキングから始めよう

このようなリスクを避けるためにできることはいくつかあります。まず、きちんと健康診断を受けて、心電図や血液検査から動脈硬化を引き起こす基礎疾患がないことを確認することです。もし、こうした基礎疾患があったとしても、低強度の有酸素運動をすることで治療効果もあります(当然ながら、どの程度の運動から開始するかは主治医と相談して決めてください)。

次に、しっかりと保温のできる服装(ウインドブレーカーなど)で低温に身体をさらさずに走るようにすることです。また、ウォーキングでウォーミングアップをして、ある程度身体が温まってからジョギング、ランニングへと進めることです。

せっかくですから、箱根駅伝ランナーの頑張りを応援したら、ウインドブレーカーを着こんで、準備体操、ストレッチングを行い、まずはウォーキングから始めましょう。そして、少し身体が温まりほんのり汗をかくぐらいになったら、ジョギングにしましょう。じゅうぶん余裕のあるペースで走ることが健康的です。

(参考文献)ジョー・プレオ、パトリック・ミルロイ著、鳥居俊監訳『ランニング解剖学』(ベースボールマガジン社)

鳥居俊(とりい・すぐる)
早稲田大学スポーツ科学学術院 准教授
1958年生まれ、愛知県出身。1983年東京大学医学部卒、同大学整形外科学教室入局。静岡厚生病院、都立豊島病院、虎の門病院、東大病院助手を経て、1993年東芝林間病院整形外科医長。1998年早稲田大学人間科学部スポーツ学科助教授を経て、2003年より現職。専門分野は、スポーツ整形外科、発育発達(成長)学。著書に『基礎から学ぶ!スポーツ障害』、監訳書に『ランニング解剖学』など多数。
(写真=時事通信フォト)
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