けが防止にはストレッチと筋力強化

普段、ほとんど走ることがなかった人が一念発起して急に、しかも速いペースで走りだせば、ジャンプと着地の繰り返しで大腿部やふくらはぎの筋損傷を引き起こしてしまうわけです。

その他、地面に着いている脚に対して上半身をまっすぐに支える力が不足していると重心が揺れ動き、膝の内側や外側への負担になり、腸脛靭帯炎、鵞足炎という膝の周囲の腱のけがにつながったり、足首の周囲への負担になり、アキレス腱障害、腓骨筋腱炎、後脛骨筋腱炎などの足首周囲の腱のけががおこったりします。

このようなけがを防止するには、走り出す前に準備体操として膝や足首、股関節、腰などの関節を動かし、ふくらはぎや大腿部、臀部の筋肉のストレッチングをするのがよいでしょう。また、ランニングだけでなく、スクワット運動のような手軽にできる筋力強化で安全に走るための筋力を養ってください。

命の危険につながるアクシデント

それでも、これらのけがでは痛みや腫れなどで通勤時に早く歩けない、階段の昇り降りがつらい、という程度の支障が生じる程度です。もっと恐ろしいのは命の危険につながるアクシデントです。

スポーツ中の突然死のなかで、ランニングは非常に多い原因スポーツとなっています。若い世代においても突然死は発生しますが、中高年では高血圧や動脈硬化などが加わってなおさら危険度が高まっています。

実際、国内で開催される市民マラソン大会でも毎年何件かの死亡例が報告されていますから、注意が必要です。黒木識敬らの研究(※1)では2006年から2015年までの間に東京都立墨東病院に救急搬送されたマラソン中の心肺停止例8例が報告されています。このうち4例は30歳までの若年者で長距離走の習慣がない人たちで、残りの4例は50歳以上で月間100kmから200kmを走っている市民ランナーでした。

後者の市民ランナーはいずれも高血圧や脂質異常症、狭心症を経験しており、4例ともゴール直前に倒れていました。おそらくラストスパートで頑張っていたところだと思われます。普段、習慣的にランニングをしている人たちでも、高血圧や脂質異常症など動脈硬化をもたらす基礎疾患があると、レース中にこのようなアクシデントに見舞われることは重大です。

運動中は筋肉への血液供給が増え心臓の仕事量が増えますが、動脈硬化によって狭くなった冠動脈によって心筋への血液供給が増やせず、虚血性の不整脈から心停止に到ると考えられています。

(※1)黒木識敬、安倍大輔、鈴木紅、岩間徹、濱邉祐一:マラソン大会中に発生した心原性院外心停止の検討.心臓48:617-624,2016.