“ソニー自動車”は実現するのか

スモールハンドレッドは最「廉価車」ゾーンから生まれている
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スモールハンドレッドは最「廉価車」ゾーンから生まれている

EVと切っても切れない要素技術が電池だが、なかでもリチウムイオン電池は、世界的規模で熾烈な競争を繰り広げている。

「電池を制するものが、次の100年を制する」。蓄電池の世界市場規模は14年に約5兆円。うち6割をリチウムイオン電池が占め、さらにリチウムイオン電池市場の7割超は、自動車へ利用されると推測されている。

急成長が見込まれる市場だけに、日本では自動車メーカーと電池メーカーとの提携も急だ。EVの「i-MiEV(アイ・ミーブ)」を発売した三菱自動車がジーエス・ユアサコーポレーションと、「リーフ」を発表した日産自動車がNECと合弁会社を設立しているのだ。

同じアジア諸国でも、韓国は豊かな資本力と意思決定の速さで電池事業に進出、サムスンSDIとLG化学を中心に、三洋電機、パナソニック、ソニーなどの日本勢を激しく追い上げている。先述した中国のBYDも、急拡大する自国の自動車市場を支えに世界シェアを伸ばしており、日本の背後からひたひたと迫る足音が高まりつつある。

DRAM半導体や液晶ディスプレー、薄型テレビなど、開発競争で先行しながら、大量生産でアジア勢に後塵を拝した事業は枚挙にいとまがない。もともとリチウムイオン電池はソニーが初めて世に出した製品だが、今後大量生産のプロセスに入っていく中で、日本メーカーに本当に勝算はあるのか。その点を電池市場の動向に詳しい大久保隆弘・立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授に質すと、こんな答えが返ってきた。

「電池の開発は、正負極に用いる金属の種類や反応条件、電解液の種類など組み合わせが無数にあり、地味で根気のいる作業という点で日本人に適した研究です。しかし、単にいい製品をつくるだけでは世界市場でシェアを得るのは難しく、DRAMや薄型テレビの二の舞いになりかねず、新たな戦略を持って市場競争に臨む必要があります」

そう語る大久保は、(1)グローバル市場を見据える、(2)戦略思考で戦う、(3)ビジネスモデルを変えるの3点を指摘したが、3つ目のビジネスモデルの変革について次のように続けた。

「モノづくりの概念をハードだけで捉えるのではなく、開発の初期段階から日本でつくるもの、ライセンスするもの、OEM(受託製造サービス)を利用するものというように段階ごとに戦略を見直す。そして新たな垂直統合モデルを、世界中で展開する視点が求められています」

EVといい、電池といい、従来の「いいものをつくれば世界中で売れる」という日本のビジネスモデルはもはや通用しない。スモールハンドレッドの言い出しっぺである村沢は「ソニー自動車ができれば一番インパクトがある」と思わず口走ったが、そんな“創造的破壊”が今、日本に最も必要とされているのかもしれない。(文中敬称略)