同じ「HOT PEPPER」で失敗した例に「サマ会」があります。暑気払いにラベルをつけることで、夏の宴会需要を高めるのがねらいでした。みんなで日頃の労をねぎらう「おつかれサマ会」、ひとりで楽しむ「おひとりサマ会」などのコピーを用意したものの、「女子会」のように裏付ける事実がなかったため、普及しませんでした。

「加齢臭」も市場を創ったことばの1つです。資生堂が99年、「ノネナール」という物質が中高年者の独特の体臭の原因であることを発表し、命名しました。科学的な根拠と同時に、その体臭に対する中高年の不安という事実があることで、このことばがインパクトを持って受け入れられたのでしょう。

これらの例を踏まえると、市場を創造することばは、あらかじめことばになっていない事実があり、それに適切なラベルを与えることによって、その事実が顕在化し、多くの人の関心を集め、それにまつわるさまざまなビジネスに展開すると考えられます。逆に言えば、どれだけうまいことばをつくったとしても、そのことばが表す事実がなければ、市場創造にはつながらないということです。

そうしたことばをつくるには、2つの方法があります。1つは「一からことばをつくる」方法です。例えば、「公園デビュー」ということばは、光文社の「VERY」という雑誌から生まれました。以前は、結婚・出産を20代でする人が多く、公園に子どもを連れていってもコミュニティに入りやすい状況がありました。しかし、昨今は結婚・出産のタイミングが人によって大きく異なり、親のバックグラウンドも多様化したため、公園でのコミュニティづくりが一大事になってしまった。その状況をうまく表したことばと言えます。

もう1つは、認知科学でよく言われることですが、「既知なるものから未知なるものを類推する」方法です。例えば、「ゲリラ豪雨」ということばがあります。気象の専門家によると「局所的豪雨」が正しい表現だそうです。しかし、我々素人にすれば、「ゲリラ」ということばは、「いつどこに現れるかわからない」ことのメタファーとしてわかりやすく、すっかり定着しています。

すでに知っていることばとくっつけることも有効です。例えば、「婚活」ということばは「就活」から派生したことばです。「活」の前に別の漢字をくっつけることで、何かを一生懸命やるという意味として捉えられやすくなるわけです。2文字で表現できると、メディアでも使いやすいため、「終活」「妊活」「美活」「朝活」など、さまざまなことばが生まれています。