「食べるラー油」はなぜブームになったか

市場を創造することばは、4つの類型に整理することができます。

1つめは「呼称」です。「コギャル」「美魔女」「草食男子」などのように、ある種の特徴を持つ人々を表します。

2つめは「行為」です。「婚活」「クールビズ」「断捨離」など、ある種の行動を表します。

「呼称」や「行為」のことばには、よい面と悪い面があります。よい面を挙げると、「女子会」や「婚活」ということばは、それを行う人たちを解放することにつながりました。「女子会」は女性同士で外で飲むことのハードルを下げましたし、「婚活」は結婚相手の紹介サービスを利用しやすくしました。悪い面としては、ことばができることで、特定のイメージを押しつけられたと感じ、不快感や拒否感を覚える人もいるということです。

3つめは「脅威」です。「加齢臭」「脇汗」「メタボ」などのように、解決すべき問題を顕在化させます。この場合は、脅威と同時にその解決策を提示することでマーケットが生まれます。ただし、安易にマーケティングに使うと、消費者に「金儲けのために危機感を煽っている」と捉えられ、反感を買うリスクがあります。

4つめは「カテゴリー」です。最近の例では「クラフトビール」「サードウェーブコーヒー」などが挙げられます。カテゴリーは1つのブランドだけでは成立しません。例えば、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」の登場で「プレミアムビール」というカテゴリーが広まりましたが、以前からそのカテゴリーにはサッポロの「ヱビスビール」がありました。しかし、1ブランドしかなかったためにカテゴリーとして広まらなかったのです。このことから言えるのは、カテゴリーを1社で独占するのではなく、他社とともに広げていくことの必要性です。少し前に「食べるラー油」がブームになりましたが、あのときは、先行した桃屋に、それまでラー油市場で9割以上のシェアを持っていたS&Bが、対抗商品をぶつけたことによって話題になり、広く認知されることにつながりました。

いずれにせよ、賛否両論が起きるようなことばのほうが話題になりやすいため、市場の創造につながる可能性は高まります。ただし、そういうことばは炎上するリスクもあり、使う場合には注意が必要です。

松井 剛(まつい・たけし)
一橋大学大学院経営管理研究科教授
一橋大学商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。専門はマーケティング、消費者行動論、文化社会学など。著書に『いまさら聞けないマーケティングの基本のはなし』『ことばとマーケティング』、共著に『欲望する「ことば」』など。
(構成=増田忠英 写真=AFLO)
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