(2)アウエーで交渉する
一見したところでは、相手の陣地で交渉することは不利益しかもたらさないように見える。
だが、あなたが売り手の場合には、自社の製品なりサービスなりに相手の関心を向けさせるには、相手の会社を訪問するのが往々にして唯一の方法だ。交渉場所の選択には象徴的な意味もある。相手の陣地に入ることで、あなたは交渉をまとめたいという真剣な思いと強い願望──相手を口説き落として契約を結ばせるうえで貴重な要因になりうるもの──を示すわけだ。
多くの途上国では、政府高官や企業幹部は膨大な書類を提出しなければ海外出張を許されないことがあるし、許されたとしても旅費がないことがある。交渉を迅速に片づけたければ、あなたのほうから出向いていくことが必要だ。
また、海外よりも国内で交渉する場合のほうが交渉者に与えられる権限が大きいという場合もある。その場合はあなたから出向くほうがいい。
たとえば、アメリカの石油会社とコンゴの国営企業のある交渉で、コンゴのモブツ大統領(当時)は、交渉の進展をすべて自分に報告するよう命じ、決定はすべて自分が下すと主張した。コンゴの交渉者は毎日進捗を大統領の側近に報告し、側近がそれを大統領に報告した。そして翌朝までに、コンゴの交渉者にその日の交渉に関する指示が与えられるのだった。この交渉は比較的短期間でまとまった。キンシャサではなくニューヨークでこの交渉が行われていたらそうはいかなかっただろう。
相手のテリトリーで交渉する最も重要な理由は、そうすることで学習のチャンスが得られることにある。交渉をまとめるとは、継続的な関係の基礎を築くことであり、継続的な関係は当事者が互いに相手のことをどれほどよく知っているかに決定的に左右される。ビジネス交渉に欠かせない目的の一つは、双方が相手や相手の事業について、また相手を取り巻く状況について情報を得ることにある。
なじみのない新しいテリトリーで交渉を行うときは、必ず早めに現地に着くようにしよう。環境を知るための時間が必要だからだ。それに、あなたがビジターであっても、ホテルの会議室など、自分で選定し、主導権を持てる場所で交渉を行うことでホストになることもできる。多くの企業幹部が、交渉のために外国に着いたところ「主要マネジャーが急用で出かけてしまったので、2、3日待ってくれ」と言われた経験を持っている。経験豊富な交渉者は、出張プランをホスト側に明確に伝え、現地での滞在予定期間を短めに告げたりするなどの対策を講じる。
遅延に出くわしたあと、早く帰国できるよう、譲歩してでも交渉をまとめなければというプレッシャーをより強く感じるようになった場合は、一般に交渉をそこで中断し、時と場所を変えて再開することにするのが最善の策だ。
交渉が継続的に行われ、しかも関係を築くことが重要な考慮事項である場合には、双方の会社で交互に交渉を行うのが理にかなっているだろう。