また、これはもっと根本的なことだが、ソフトバンクが出資している配車サービスの会社のデータをモネ・テクノロジーズに許可なしに持ち込むことはできない。トヨタは「せっかく提携したのだから、口利きぐらいしてくれるだろう」と思っているかもしれないが、孫会長はそんなお人好しではない。ソフトバンクの投資リターンが最適化される相手と組むことを投資先の企業に求めるはずで、その相手は必ずしもトヨタでなくても構わないのだ。

「Shared」の主役はライドシェアや配車アプリではない

豊田社長は「数ある工業製品の中で“愛”がつくのは車だけ」と熱く語る。対する孫会長は「車はコモディティ」と言って憚らない。モビリティに対するトップの価値観が百八十度異なるディールがどこまでうまくいくか、見通すのは難しい。両社ともこの提携に失敗できる体力があるのは確かだが。

自動車業界に押し寄せている大変革の波は、「CASE」と呼ばれる。「Connected(つながる)」「Autonomous(自動運転)」「Shared(共有)」「Electric(電動)」という4つの英語の頭文字を取ったキーワードで、この4つの領域が今後の変革の主戦場になってくる。

たとえば「Connected」について言えば、トヨタはネットに常時接続してIoTで制御するコネクテッドカーをすでに発売している。ソフトバンクは実はホンダと組んで5G(第5世代移動通信システム)を利用したコネクテッドカー技術の共同研究をしていて、トヨタの合弁とどう折り合いを付けるのか気になる。

またソフトバンクは16年にイギリスの半導体設計大手のARM社を約3兆円で買収している。コネクテッド化や自動運転、電動化の技術に必要な車載用の半導体を、ARMを通じて支配しようというのが孫会長の狙いだろう。ということはトヨタに限らずすべての勝ち組の車会社、システム会社にこれを売り込む、ということだ。

CASEのいずれの領域でもトヨタとソフトバンクは研究開発や投資を進めているが、モビリティサービスとのつながりが大きいのは「Shared」である。トヨタもUberやDidi、Grabといったライドシェアのプレーヤーと提携して協業関係を強めている。しかし、自動車業界に大きな影響を与える「Shared」の今後の主役はライドシェアや配車アプリではないと私は見ている。