介護経験者が感じた、やっておくべきだったこと

そうした親側の備えとともに、親の長寿期10年を支えてきたPさんの次女は、自分が備えておけばよかったこととして、次のようなことを挙げる。

春日キスヨ『百まで生きる覚悟』(光文社新書)

次女「私が準備不足だったと強く思うのは、母の認知症がひどくならないうちに、聞きにくいけど、家でみられなくなった時にどうしたいか、どんな施設で過ごしたいかを母とともに考え、具体的に見学し、費用も知っておくべきだったこと。

病院に入院中の、医療費以外の個室代や付き添い費用がどれだけかかるかを知らなかったこと。

総合病院を退院後、すぐに家に帰れない時に、どういう病院や施設が利用できるのか、費用はどれだけかかるのか、どんなサービスを受けられるか、いつまでいられるのかなどを知らなかったこと。

病院や施設の相談員も、母に最適な施設を具体的に提案したり、空いた所を探してくれるわけではないこと(も知らなかった)。高齢の親がいる場合、家族自身がこうしたことについて、しっかり考えておくべきだったということです」

彼女の場合、認知症の周辺症状を理由に、母親に個室や付き添いが要求され、高額の出費が必要だったこと、また、施設で暮らす母親がおかれる過酷な現実を目の当たりにしたことから、病院や介護施設の現状や制度について、常日頃から学び、情報収集していなかったことを悔やんでいた。

元気なうちに支援者・後見者探しをしておく

Oさん、Pさんの場合、頼るつもりだった子どもの当てが外れたとしても、他の子どもが面倒をみてくれた。しかし、そもそも頼る子どもがいないか、いても頼れない人が増えているのが、大正期後半以降生まれの長寿者世代である。子どもがいない、いたが死去した、子どもはいるが、外国や遠方に住んでおり頼れない、子どもとは長年、疎遠な関係で生きてきた、生涯シングルだった……などなど。こうした人たちの場合、頼りになる子どもがいる人とは異なる、別の備えが必要になる。たとえば、本章冒頭の支援者Cさんが言う、「主人に先立たれ、子どももなく、身元保証人なし」の91歳の独居女性の場合は、Cさんという支援者とすでにつながっていたから、身元保証人確保のために「急遽NPOを頼」むという緊急対応が可能となっている。ひとり暮らしで自分の暮らしぶりを知る人が身近にいない人の場合、問題を発見し、支援者を呼び込み、医療機関や介護サービス機関につなぎ、その後の手助けをしてくれる人をどういう形で確保しておくかの備えが重要となる。特にそれは、本人自身が「自分は元気、まだやれている」と思う中で、ひそかに進む認知症の発症に伴う生活リスクを最小限にするために必要な備えである。

春日キスヨ
社会学者
1943年熊本県生まれ。九州大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。京都精華大学教授、安田女子大学教授などを経て、2012年まで松山大学人文学部社会学科教授。専攻は社会学(家族社会学、福祉社会学)。父子家庭、不登校、ひきこもり、障害者・高齢者介護の問題などについて、一貫して現場の支援者たちと協働するかたちで研究を続けてきた。著書多数。