【臨床試験参加】「質がいい」新薬の臨床試験に参加するには
がん患者にとって悩ましいのが、ドラッグ・ラグ(新薬が開発されてから実際に使用できるまでの時間差)の問題だ。ドラッグ・ラグが生み出す「がん難民」の受け皿として、未承認・適応外処方を標榜する民間診療所は少なくない。真摯に医療を提供する診療所もあれば、やたら法外な治療費を取る医師や輸入代行業者もいる。
ある医師は「もともと医療の現場では適応外処方は当たり前。医師は保険適用されるように病名をカルテに追加していたし、診療報酬を審査する側もこれを容認していた」という。
ところが近年、カルテの電子化と診療報酬明細付き請求書の発行が義務づけられたことで、この“日本的方便”が通用しなくなった。たちまち未承認薬・適応外処方の問題がドラッグ・ラグに姿を変えて浮上してきたのである。
そもそもドラッグ・ラグの背景には、日本独特の薬事承認=保険適用という仕組みがある。欧米では薬事承認と保険制度が切り離されているので、科学的根拠が確立されていれば、未承認薬の治療費が保険で支払われることも、またその逆もありうる。これに対し、日本では保険適用前に臨床試験と承認申請が必要であり、当然「申請ラグ」が生じる。
ただ現在は、1999年の厚生労働省からの通知により、医療者が広く常識としている「公知」に基づく申請ができるようになった。これは「これだけ海外で実績があるのだから、申請があれば臨床試験なしで保険適応する」という制度。10年11月現在、公知申請が認められたのは18品目(23製剤)、医療上の必要が高いと判断された品目は182件にのぼる。
国立がん研究センター中央病院の藤原康弘副院長兼乳腺科・腫瘍内科科長は「日本でも未承認・適応外使用の問題を医師主導の臨床試験で解決できるよう、国際基準に準拠した法整備が必要」だという。確かに世界的に通用する「公知」を積み上げるには臨床試験の質の担保が望ましい。また倫理指針、補償制度が明確になれば我々も安心して臨床試験に参加し、海外からの「臨床試験ただ乗り批判」に応えることもできるだろう。
がん患者としては、実際に臨床試験に参加するという道もある。臨床試験の参加は、最新の治療を受けられる可能性があるというだけでなく、その結果が次世代への遺産として残るという意味もある。ただし、参加にあたっては、表に掲げる基準に該当するかどうかを確認し、「質がいい」臨床試験に参加するのが望ましい。
※すべて雑誌掲載当時