離脱協定に基づかない「無秩序な離脱」のリスク

膠着が続いていた英国の欧州連合(EU)からの離脱交渉にようやく前進が見られた。11月25日、EUはベルギーの首都ブリュッセルで臨時の首脳会議(サミット)を開催し、英国のEU離脱に関する協定案に関して正式合意に達した。同時に英国とEUの将来的な通商関係に関する政治宣言案に関しても双方で合意が成立した。

2018年11月15日、記者会見に応じるイギリスのメイ首相。(写真=AFP/時事通信フォト)

今後英国とEUは、それぞれの議会で離脱協定の承認を得る必要がある。多くの識者が指摘するように、最大のリスクは英国議会が協定を否認することにある。仮にそうなった場合、国民投票の再実施を含めた幾つかの展開が考えられるものの、いわゆる「合意に基づかない」形での離脱(ノーディール)に向かう可能性が高まる。

「合意に基づかない」形での離脱とは、離脱協定に基づかない無秩序な離脱を意味する。他方で今般合意に達した「合意に基づく」形での離脱のポイントは、現状をできるだけ維持することにある。特に重要なのが、最大の係争関係にあった北アイルランド国境問題の解決を21年7月まで先送りするということだ。

「3月29日」までに合意に基づく離脱ができるか

英国の一部である北アイルランドの住民は98年のベルファスト合意以降、アイルランド国籍の選択が容認されている。英国は北アイルランドを英国として扱いたいが、一方で住民の中にはアイルランド国籍保持者もいる。アイルランドとの紛争を蒸し返しかねないため、その扱いは非常にナイーブであった。

さらに21年7月までに問題が解決しない場合、英国は最長で23年までEUの関税同盟にとどまることができる。つまり「合意に基づく」離脱が期限となるロンドン時間19年3月29日午後11時に実現すれば、英国とEUの通商関係は、少なくともモノの輸出入に関して現状の関係が当面の間は維持されることになる。

ただ英国の与党・保守党の中では、離脱強硬派と呼ばれる議員を中心に、こうした解決の先送りに対して批判的な意見が多い。また閣外協力関係にある北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)も反対の立場を鮮明にしている。彼らのうちのどれだけが英国議会において反対に回るかで、事態は決すると言える。