経団連、政府、大学も動く必要がある

第二に、「就活ルール廃止」を表明した経団連です。おそらく担当者は今、「採用選考に関する指針」の見直しと修正の検討に入っていると思います。そこで、広報活動や選考活動を解禁する「開始日」の廃止と、10月1日以降を内定日とする事項の廃止をあわせて検討するのです。そうすれば、学生の主体的な就職活動と、企業がそれぞれのタイミングで行う採用活動が、かみ合うようになります。

第三は、政府の役割です。新卒採用の現行ルールを維持する理由は、主に就活の早期化と長期化による混乱を避けることにあります。その点は理解できますが、忘れてはならないのは、現行ルールでも、大学3年生から4年生にかけて、長期化した就活に時間を奪われる学生が大量に生み出されていることです。現行ルールの維持では、何ら解決には至りません。「ターム&プール採用」を導入することで、学業をおろそかにしない就活が可能になるのです。現行ルールで混乱を避けるのではなく、大学と企業のより良い関係づくりのつなぎ役として、政府はぜひ、「ターム&プール採用」の検討を行ってください。

そして最後に、大学生を送り出す大学の役割です。学業を脅かすから企業の採用活動を妨げるのでは、本末転倒です。もちろん、大学時代は専門的な学びを深める大切な時期ですが、学生が社会人になるトランジッション(移行)を支えることも、今の大学にとっては大切な教育活動です。直接、学生の就職活動に関与しないという立場をとる先生の場合でも、学内のキャリアセンターの協力を得ることで、大学側として就活生をサポートしていくことはできます。

採用を考えることは次世代を育てること

それぞれの立場ができることに取り組んでいく。そうすれば、「就活ルール廃止」後の新卒採用は、必ず、今より改善されたものになっていきます。「ターム&プール採用」モデルをたたき台として、より良き「就活と採用」の関係を構築していきたいと考えています。

新卒採用を考え抜き、新たなモデルを導き出すことは、変化の激しいグローバル社会の中でも柔軟に仕事に携わり、仕事を生み出していける次世代を輩出することにつながっていきます。それは、大学界と経済界に課せられた「次世代を育てていく」という共通の社会的使命に、真摯に向き合うことでもあるのです。

田中研之輔(たなか・けんのすけ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
1976年生まれ。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめ、2008年に帰国。専攻は社会学、ライフキャリア論。著書に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『ルポ 不法移民――アメリカ国境を越えた男たち』(岩波新書)など他十数冊。Original Point 株式会社 社外顧問。
(写真=iStock.com)
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