睡眠負債は長年続くと、肥満、高血圧症、免疫力低下などの原因となり、認知症やがん、うつ症状などの深刻な病気につながる恐れもある。一方で日々の仕事にも影響は大きく、脳の機能が低下して短期記憶(ワーキングメモリ)の働きが悪くなるため、単純ミスや物忘れが多くなる。
「図のグラフは睡眠研究ではよく知られる実験データで、6時間睡眠を2週間続けると、脳の反応速度は2日間徹夜したのと同じレベルまで下がるという結果が出ています。気づかないうちに脳の情報処理能力はそこまで低下するということです」(枝川教授)
週末に寝だめすれば「返済」できるのか?
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によれば、成人のうち睡眠時間が6時間未満の人はおよそ4割を占め、その割合は増加傾向にある。
そこで知りたくなるのは睡眠負債の返済方法だろう。すぐに思いつくのは「週末の寝だめ」だが、これはあまり効果がないという。
「睡眠負債は借金のイメージで語られますが、睡眠にはお金と大きく違う点が2つあって、ひとつは貯蓄ができないこと、もうひとつは一気に返済できないことです」(枝川教授)
仮に平日に合計6時間の睡眠負債があれば、土日にそれぞれ10時間ほど寝れば取り戻せると考えるのは誤り。睡眠の効果は、単純に時間だけでなく、質も関わってくる。“眠りの質×時間”が充分ではなくなるばかりか一日のリズムが狂ってしまい逆効果になってしまうからだ。