小さく結果を出し、少しずつ理解を得る

これが3つ目の成功要因、他者を巻き込む「センスメーキング」です。新しいことを起こすときにはビジョンを語って、それを周囲に納得(センスメーク)してもらい、巻き込むことが重要、と経営学では主張されます。しかし、西村社長はこう話します。「言葉で全員を動かすのは不可能。私の考えに近い人を小さく動かして、小さく実績を出し、少しずつ社内の理解を得ていきました」。西村社長の場合は言葉ではなく、まずは小さくても結果を出すことで、徐々に周囲を巻き込んだのです。

西村社長は、「これからは鯖江ブランドに頼って下請けで満足していては駄目。スイスの時計ブランドのように、鯖江のなかに独自の眼鏡ブランドがいくつも生まれていくべき」と言います。西村社長が目指すのはペーパーグラスの成功だけではありません。鯖江という街が眼鏡で大復興することなのです。

同じ厚さでフラットに折りたためるため、本に挟んだり、胸ポケットや長財布に入れることもできるという。
2mmにたためる「ペーパーグラス」
●本社所在地:福井県鯖江市
●従業員数:10名
●社長:西村昭宏(1978年生まれ。大阪の大学卒業後、東京のIT企業を経て西村金属へ入社)
●沿革:2013年にインターネット通販サイトをオープンし、15年1月に直営の福井店をオープン。16年5月には帝国ホテル東京内に、7月には台湾・台北に直営店をオープンした。16年9月期の売り上げは2億3000万円、前年比125%。18年9月期には5億円を目指す。
入山章栄
早稲田大学ビジネススクール准教授
三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。2008年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールの助教授を務め、13年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。近著に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』。
(構成・撮影=嶺 竜一)
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