歩合が増えて収入への関心が低下するとやる気が減少した
図表(2)の(b)は、(a)で回答を寄せた同じ人たちに、現在の自分の給料にどの程度満足かと問い、重ねてもっとよい給料がほしいとどのくらい強く思うかを問うたものである。図中の赤線は、現在の給料へ不満な者と満足している者の「もっとよい給料がほしい」という気持ちの平均値を結んだものである。赤線は右下がりで、給料に不満な人ほど「もっとよい給料がほしい」という気持ちが強く、満足な人はその気持ちが弱い。このアンケート結果に見られるように、不満のときに関心が高まり、満足すると関心が低下し、さらなる満足を求める気持ちがうすらぐ、というのが給料に代表される衛生要因の特徴である。この衛生要因の特徴から次のことがいえる。
第一に、ハーズバーグがいうように、衛生要因からは満足感が得られにくい。つまり満たされたときには関心が低下しているから、満足を感じないか、感じてもすぐ消える。
第二に、衛生要因で人を動かし続けることは実際問題としては難しい。たとえば、給料を仕事への動機づけとして使い続けるためには、いつも従業員に給料への関心をもっていてもらわねばならないが、そのためには、従業員にいつも給料に不満を持たせておかなければならない。アメリカのある会社で、慈悲深い経営者がセールスマンの歩合を思い切って高くしたところ、セールスマンが働かなくなったという報告がある。つまり、歩合が少ないときには、セールスマンは収入に強い関心をもち、大いにセールスに励んだが、歩合が増えて懐が温かくなると、収入への関心が低下しセールス・モチベーションも下がったのである。これらのセールスマンにもう一度やる気を起こさせるには、さらに歩合を大幅アップしなければならず、慈悲深い経営者は倒産しかねない。
失恋休暇、バーゲン休暇、ペット扶養手当――これらは衛生要因の宿命で、短期間で関心が薄れ、効果がなくなるであろう。若者たちに去りがたく感じさせ、かつ彼らを有為な人材として育てるためには、“成果への満足→より高い成果への挑戦”の循環が生まれるよう、入念な人事管理と管理者のすぐれたリーダーシップこそが肝要である。
(*1)Herzberg, F., & Others. (1959). Motivation to work (2nd ed.). Oxford, England.Herzberg, F.(1966). Work and the nature of man. Oxford, England.