では、動機づけ要因、衛生要因の満足は、仕事へのモチベーションにどのように影響するのであろうか。

中国の古語に“隴(ろう)を得て蜀(しょく)を望む”という言葉がある。一を得れば二を、二を得れば三をというように、欲望にはきりがないという意味に使われることが多いが、動機づけ要因の満足にはこれと似たところがある。つまり、ある要因で満足すると、その要因への関心が一層強くなり、さらなる満足を求める。たとえば、自分があげた仕事の成果に満足すると、大多数の人は、仕事の成果をあげることに一層の関心をもち、“よし、次はもっと成果をあげてやろう”と思う。

図表2
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図表2

図表(2)の(a)は、約400人のOLに、自分の「仕事の成果」にどの程度満足しているかを問い、重ねて「もっとよい成果をあげたい」とどのくらい強く思うかを問うたものである。図中の青線は、成果へ不満な者と満足な者の「もっとよい成果をあげたい」という気持ちの平均値を結んだものであるが、線は右上がりで、成果に満足している者のほうが不満な者よりも“もっとよい成果をあげたい”という気持ちが強い。つまり、動機づけ要因の満足はさらに自らを動機づける効果をもっている。

目標理論によると、私たちは、目標の達成に成功すると次の目標を高め、失敗すると次の目標を低くする傾向がある。成果に満足した人たちは、自分の目標の達成に成功したから満足したのであり、それで次の目標を高め、もっとよい成果をあげたいと願ったのであろう。こうした状況が繰り返されると、「満足(成功)→より高い目標への挑戦」の循環が生まれ、仕事への自信・能力が高まり、充実した職業生活が送れることになる。

一方、成果に不満な人たちの多くは、自分の目標の達成に失敗し、次の目標を下げたのであろう。こうしたことが繰り返されると、仕事への自信、意欲が失われ、やがてそれが離職の原因にもなりかねない。すでに触れたように、入社3年以内にやめていく若者が多いとされているが、おそらくそれらの若者の多くは、自分の成果に満足した経験をもったことがないのであろう。というのは、成果に満足し、次はもっとよい成果をあげたいと思っている人がその仕事を捨てて会社をやめるとは考えられないからである。したがって、若者の早期離職を防ぐ強力な方策の一つは、若者たちに“的確な指示と指導”を行い、実際に高い成果をあげさせ、“よくやった”とそれを認めて満足感をもたせることであろう。

では、衛生要因の満足の場合はどうであろうか。空腹なときには食物に対する関心が高まり、摂食モチベーションが喚起され、満腹すると食物への関心は低下し、摂食モチベーションは消滅する。同じような現象が衛生要因の「満足」と「関心」の間にも見られる。つまり、ある衛生要因で不満があるときには、その要因に対する関心が高まり、その要因が満たされることを求めるが、満足すると、その要因への関心が低下し、さらなる満足を求める気持ちがうすれる。たとえば、給料に不満があるときには、給料に対する関心が高まり、「もっとよい給料を」と思う。だが、ひとたび満足が得られると、給料への関心は低下し、さらなる満足を求める気持ちがうすれる。