「ガラが悪い」といわれ、住まいとしての評価が低い“まち”がある。たとえば首都圏では東京都足立区や神奈川県川崎市といった自治体だ。だがデータをみると、実際の犯罪発生率は低い。なぜデータとイメージが乖離しているのか。行政評論家の大原瞠氏は「センセーショナルな犯罪報道が誤解を広げている」と指摘する――。
※本稿は、大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
「治安の善し悪し」と「ガラの善し悪し」は違う
私たちが引っ越し先を決める際、転居候補地のまちの治安の善し悪しを気にしない人はまずいないでしょう。
市区町村ごとの治安の善し悪しをわかりやすく比較する指標としてよく引用されるのが、各都道府県の警察が発表している「市区町村別刑法犯認知件数」を各地の人口で割って出した「人口1万人(または千人)当たりの刑法犯認知件数」というものです。わかりやすくいえば人口当たりの犯罪発生度合いのことで、少なければ少ないほどまちは安全、という理屈です。
一方で、私たちはまちの安全・安心を、「ガラの善し悪し」といった言葉で表されるような、いわば皮膚感覚でも判断しています。ただし実際のところ、こうした皮膚感覚(まちのイメージ)と客観的なデータが一致しているかといえばはなはだ疑問です。それでいて不動産評価は、鉄道沿線や地名の持つブランドイメージで値段が決まってしまう例があることからわかるように、安全に関する客観的データと、各地域の持つ安心(または不安)なイメージなら後者が優先されて、まちの評価が決まってしまうことが多いようです。
ただ、みんなが目を背けているだけなのか、それとも単に気づいていないだけなのかわかりませんが、実はここにも大きな「不都合な真実」が潜んでいるのです。