地方官僚の「忖度」が過剰なプロパガンダに

ちなみにこうした傾向は、首都の北京や習近平の祖籍地である陝西省のほか、冒頭の湖北省や湖南省などで特に色濃いようだ。

安田峰俊『さいはての中国』(小学館新書)

中国共産党中央党校を修了した経歴を持つ元中国官僚で、現在は亡命中の民主活動家・顔伯鈞に理由を尋ねると、昨今の現象は地方官僚が政権の意向を過剰に忖度して引き起こした面もあると話した。

「例えば、中国では2015年7月に人権派弁護士が100人単位で拘束されましたが、習近平自身の意向は『少し脅しておけ』という程度だったかもしれない。しかし、末端の幹部は出世の点数稼ぎを目的に、目立った成果を挙げようとします。現在の過剰なプロパガンダの蔓延にも、同様の構図があることでしょう」

もっとも別の要因もある。

「習近平時代(第一期)に入り、社会の決定権を握る人間の多くが文革の主人公だった紅衛兵世代に代替わりしました。文革は毛沢東が個人崇拝と大衆扇動的なプロパガンダを通じて起こした政治運動です。多感な十代でこれを味わった彼らには、毛沢東式の手法こそが『政治』の本質だ、とする観念が刷り込まれています」

考えてみれば、子どもの「洗脳」や文化施設へのプロパガンダを重視する政策とは、まさに文字通りの「文化大革命」だ。事実、共産党公園がある湖北省をはじめ、習政権のプロパガンダ政策が特に強烈に実施されている陝西省・湖南省などの党委員会の書記を調べると、全員が例外なく紅衛兵世代である(取材当時)。いずれも習近平と同じく、若き日に下放を受けた経験を持つ「文革の子」だ。

「文革世代」の政治は長期化

――彼らは歳を取って変になったのではない。変な人たちが歳を取っただけなのだ。

中国では文革世代を揶揄したこんなジョークもある。青春時代に暴力的な政治運動の洗礼を受けた人々の統治は、必然的に荒っぽいものにならざるを得ないというわけだ。

「習政権の10年間は、リベラルな中国人にとって暗黒の時代です。しかし、これが世代的な問題である以上、彼らの退場後に中国の夜明けが必ず来ます」

と顔は言ったが、習近平はこの取材後の2018年3月に国家主席の任期制度撤廃を取り決め、文革世代の政治は当初の想定よりもいっそう長期間続く可能性が高くなった。

また、習近平体制は都市部のインテリ層や共産党内の穏健派から強い嫌悪感を持たれているが、いっぽうで地方の農民や都市部の貧困層の庶民からは支持されている。毛沢東が発明した「文革式」の政治は、中国人民をまとめる上では意外と有効な手法でもある。

共産党公園の開設ラッシュは、時代遅れの「文革の子」による最後の悪あがきか、ある意味において習近平政権の統治の安定ぶりを示すものか。答えは出ないが、のどかな市民公園を歩いていても、ちっとも落ち着かないことは確かである。

安田峰俊(やすだ・みねとし)
ルポライター
1982年生まれ。立命館大学人文科学研究所客員研究員。広島大学大学院文学研究科修了。現代社会に鋭く切り込む論を、中国やアジア圏を題材に展開している。著書に、天安門事件に取材した『八九六四』(KADOKAWA)、台湾のホンハイCEOを扱う『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)、編訳書に『「暗黒・中国」からの脱出』(文春新書)など。
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