なぜロート製薬は、いち早く解禁したのか

副業解禁のリスクとして、企業秘密の漏洩がよく挙げられます。しかし、副業を解禁する/しないにかかわらず、企業秘密が漏洩する危険は常にあります。これはむしろコンプライアンスの問題であり、副業を解禁しない理由に企業秘密の保持を挙げるような企業は、コンプライアンスのほうに問題があるのではないかと思います。

大企業ではソフトバンクも副業を認めている。(AFLO=写真)

むしろ、副業解禁によって起こるのは、法律上の問題です。労働時間が通算8時間を超えたら残業代を支払わなければならない残業通算規定や、労災補償、雇用保険などは、複数の仕事を持って働くことに対応しておらず、今後副業が広がるにつれて見直さざるをえなくなるでしょう。

現状は日本企業の多くが副業を認めていませんが、将来的には、副業を認めない企業は、採用面で影響が出てくることが考えられます。若い世代を中心に、副業をしたいと考える人が増えてきています。優秀な人材の獲得は今後ますます厳しくなることが予想されるだけに、副業を認めないと、優秀な人材を確保できなくなるかもしれません。副業解禁を人材確保施策としてとらえると、報酬増のようなコストアップにはつながりません。そういう意味では、副業解禁は「現金流出のないインセンティブ」と言えます。

したがって、業界の中で先行して解禁するメリットは大きいでしょう。メディアにも求職者にも注目されやすくなります。逆に、「あの会社がやったからうちも」という後追いでの副業解禁は、うまくいかない可能性があります。副業解禁は人事システムの仕組みの一部ですから、他の部分を変えずに副業だけを解禁すると、問題が起こります。経営者の意識や社風も、併せて見直す必要があるかもしれません。

大手企業でいち早く副業解禁を打ち出し、注目を集めたのがロート製薬です。同社はヘルス&ビューティケアの領域で一般用医薬品や化粧品、食品の製造・販売を行うほか、再生医療やアグリビジネスといった新分野にも取り組んでいます。ロングセラー商品としてパンシロン、V・ロート、メンソレータムなどが知られるほか、化粧品の「肌ラボ」というヒットブランドもあります。分野は多岐にわたりますが、ほとんどの分野に強力な競合企業が存在しているため、常にチャレンジが求められる環境にあります。それが、他社がやっていない副業解禁というチャレンジに繋がったと言えます。

同社が副業を解禁した目的は、企業の枠を超えた働き方によって、ベンチャー精神と行動力を持った、自立した社員を育てることです。その背景には、「日本企業は社員を囲い込み、縛り付ける風潮がある。その結果、社員が内向きになり、世間とズレて、時代の変化にも乗り遅れる」という山田邦雄会長の問題意識がありました。副業を解禁して以来、入社10~20年目の社員を中心に副業が始められています。