年をとるごとに悪くなる体のコンディション。これを「老化のせい」と一蹴していないだろうか? 実は、体と密接な関係にある脳とうまくつきあえれば、万全の体調を実現できるかもしれないのだ。それは──。

優れたアスリートは、脳を深く正しく使う

常に体のコンディションを万全にして勝負に挑むアスリートたち。そんな彼らに脳科学の観点からアドバイスを送ってきた人物が、脳神経外科医の林成之氏だ。これまで競泳の北島康介選手、陸上の桐生祥秀選手、なでしこジャパン、日本女子カーリングチームなど、多くの選手・団体の指導にあたってきた。

脳神経外科医 林成之氏

脳神経外科医とアスリートは異色の組み合わせに思えるが、実はスポーツと脳は密接に関係している。

「スポーツ選手というと、まずは体が資本、頭は二の次というイメージがあるかもしれませんが、それはまったくの誤解です。優れたスポーツ選手ほど脳を深く正しく使っています。走る、ボールを蹴るなど単純そうな運動ひとつ行うにも、人間の脳の中ではたくさんの機能が働いているのです」(林氏)

では、スポーツ選手たちはどのように脳を働かせているのか。それを知る前に、林氏が唱える脳機能の仕組みを確認しておこう。

私たちは五感(おもに視覚と聴覚)を通じて脳内にさまざまな情報を取り込む。脳の中にはその情報が巡るルートがある。最初に情報を受け取るのは脳表面に広がる大脳皮質神経細胞だ。ここには言語中枢、視覚中枢、知覚中枢、運動中枢など多くの中枢機能がある。情報を巡るルートはここから2つに分かれ、ひとつはダイレクトに前頭前野に送られ、もうひとつは、大脳皮質神経細胞から脳の奥深くに位置するA10神経群を通過して、前頭前野に送られる。注目したいのは後者のルートだ。A10神経群の大きな役割は送られてきた情報にレッテルを貼ることで、この情報は面白い・つまらない、好き・嫌いなどと決められる。ここでネガティブなレッテルを貼られた情報は前頭前野に「必要でない」と判断され、数日後には消去される。しかしポジティブなレッテルを貼られた情報は、「必要なもの」として自己報酬神経群に送られる。

「こうしてポジティブな要素を高めた情報は、さらに記憶機能と関わる海馬回・リンビックに届きます。このA10神経群→前頭前野→自己報酬神経群(線条体・基底核・視床を含む)→海馬回・リンビックを巡る情報のルートを、私は『ダイナミック・センターコア』と名付けました。外から入ってきた情報はこのダイナミック・センターコア内をぐるぐると回り続け、それによって思考が深まり、記憶として定着します」(同)

▼思考力の要となる「ダイナミック・センターコア」
(1)大脳皮質神経細胞
(2)A10神経群
(3)前頭前野
(4)自己報酬神経群
(5)線条体-基底核-視床

※(4)(5)が活性化するほど、意欲が高まる
(6)海馬回・リンビック
(2)から(6)までの神経群が「ダイナミック・センターコア」。この中を情報が回り続けることで、人は深く思考したり、創造したりする。
※林成之氏の取材をもとに編集部作成