一方、気をつけたいのは、“事件”をきっかけに、親の認知機能低下に向き合うことになったときの対応である。

「心配のあまり、家族が強引に施設入所を勧めるケースも珍しくありません。ただし、多くの場合はうまくいかない。認知症になったからといって、いきなり何もかもわからなくなるわけではなく、自己選択できる段階は当然あります。本人の意思を無視して勝手に事を進めると、介護拒否にもつながりかねません」

ある程度進行してしまってからの認知症発覚だとしても、やはりまずは地域包括支援センターに相談するのが望ましいという。

「どんなに厳しい状況でも、選択肢は常にあります。選択肢を考えるうえでの情報やアドバイスを提供してくれるのが地域包括支援センター。親の状態はもちろん、『仕事があり、年に数回しか帰省できない』といった事情をできるだけ率直に伝えることが介護の活路につながります」

親の認知症に直面するのは、子どもにとってショッキングな出来事だ。動揺し、気持ちの整理がつかないことも当然ある。「地域包括支援センターに連絡するときは、生活を送るなかで起こりそうな困り事を箇条書きレベルで構わないので、メモしておくことをお勧めします。具体的な情報があったほうが、役に立つアドバイスを引き出せる。何より問題を可視化することで、自分自身の気持ちを落ち着かせることができます」。

認知症は重篤な病気というイメージが強いが、きちんとしたサポートがあれば一人暮らしも可能だ。そのための支援も充実している。

「むしろ、家族だけで抱え込まず、介護のプロの手を借りながら、いろいろな人に任せるほうがうまくいきます」

▼見逃し厳禁! 気づいてあげたい親が見せる「認知症のサイン」
1.電話での返答に以前よりも間がある
認知症によって、会話の内容が理解できなくなったり、うまく言葉が出なくなる。返答までの間が長くなるのは初期症状の典型だ。

2.買い物でお札しか使わない
認知症の症状に小銭の計算が難しくなるというものがある。財布が小銭でパンパンになったり、押し入れに小銭のヤマができていることも。
3.家の中でゴミが目立つようになった
捨てるべきゴミがそのままになっているのが目立つようになったら要注意。ゴミ出しの日を忘れ、捨てそびれを繰り返しているのかも。
4.大好きな野球の話をしなくなった
継続して見ていた野球や相撲などを話題にしなくなったときは要注意。日々変化する情報の更新が難しくなっているかもしれない。