感情を移入できる設定が観客を呼ぶ

ところで、「お笑い」の公式と呼ばれる「緊張の緩和」を持ち出すには、まず場面設定がお客さんにとって容易に想像できるようにしなくてはならない。

想像できない時、お客さんの思考が止まってしまう。そういう意味では平凡な場面の設定になるのだが、そこで非凡なことが起こるのが「お笑い」なのだ。

吉本興業にいた頃、スポーツニッポン新聞社をモデルにした吉本新喜劇を1週間上演することを決めた時、新喜劇の担当プロデューサーの発案で、「舞台設定を新聞社の編集室にしても、お客さんは新聞社の内部を見たこともないし、行ったこともないので、感情を移入しにくい。だから、舞台の中心はその新聞社の向かいにある『喫茶 花月』にしましょう」? ということになった。

舞台設定を喫茶店にして、そこに仕事をサボってやってくる新聞記者の物語「スポニチ新喜劇」。文化部のデスクを内場勝則に任せ、舞台には、スポニチの手配で毎日、スポーツ選手を招き、取材をその喫茶店で取材をするというストーリーにした。また、その取材した記事は実際に号外として発行して配布するなどをして、話題を呼んだ結果、週間の総入場者数が1万5000人にもなった。

“生”の経験と勘で行動を変える

色んな意味で、吉本興業の芸人の底力は“生”の舞台で鍛えられているということだ。変化し続ける社会やそこで起きる話題、またお客さんの持つ興味などを、芸人のなかで飲み込んでは吐き出すということを繰り返しているのが「花月劇場」などの寄席小屋である。

ここは視点を変えれば、みなさんの働いておられる職種、置かれている立場でも同様のことがいえる。営業現場などの“生”の経験に勘を加えて、打ち合わせ時に空気を読み、即座に行動に変化を加えて行くのが大事なのである。

竹中 功(たけなか・いさお)
危機管理・コミュニケーションコンサルタント
1959年大阪市生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了。81年吉本興業株式会社に入社。宣伝広報室を設立し、『マンスリーよしもと』初代編集長。吉本総合芸能学院(よしもとNSC)の開校。プロデューサーとして、心斎橋2丁目劇場、なんばグランド花月、渋谷よしもと∞ホールなどの開場に携わる。よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役、よしもとアドミニストレーション代表取締役などを経て2015年7月退社。
(写真=iStock.com)
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