食べ歩きと旅行で新レシピの着想を得る
おいしい料理をつくるには、新鮮な素材の確保が欠かせない。そのため、桑折さんはプライベートでの食べ歩きと旅を頻繁に実行する。
「食事については、フレンチ、イタリアン、中華、和食など幅広いジャンルを回ります。食材やハーブ・スパイスの使い方などメニュー開発のヒントがたくさんあるからです。旅の目的はやはり食とその国の文化に触れること。地元の人たちが行くレストランを回ったり、市場などで食材を探したり。そうやって頭の中の引き出しをいつもいっぱいにしておくと、新メニューのアイデアに結びつくんです」
旅行の後には、数日間に渡って、自宅で食事会を開催する。家族や友人など各日とも10人ほどを招き、現地で買った食材を使いながらおいしかった料理を再現してふるまうのだという。
「おいしいものに出会うと、誰かに伝えたくなるじゃないですか。食事会も感動を伝えたい気持ちから開き始めたんです。なかには、独特の味付けや香りに反応が今ひとつという料理もあって、『この味は日本人には向かないのかな』と気づくことができる。結果として、マーケティングにもなっていますね」
看板商品「カシューナッツのホッダ」も、そんな旅の中から生まれたカレーだ。たっぷりのカシューナッツとかぼちゃをココナッツミルクで煮込んだスリランカ風のカレーは、ほんのり甘くリッチでまろやかな食べ心地が特徴。商品化を思い立ったのは、5年前、初めてのスリランカを訪れたときだった。
「スープストックのお客さまは、好奇心があって、新しいものにチャレンジしたいという女性がほとんど。このカレーは日本では知られていないし、甘くてまろやかな味わいも女性向き。だからこれは女性に人気が出ると確信したんです」
ヒット商品を生むための心得は「自分が楽しむこと」
帰国後すぐに試作を開始。営業担当を交えた試食会に出したところ、味についての評価は高かったものの、コストの高さがネックになってメニュー化は見送られた。粘って交渉すればメニュー化できたかもしれないが、桑折さんはこの時、あえて引き下がることにした。
「おいしいカレーを『おいしい』と評価してもらうには、お客さまに選んでもらうことが大前提。このカレーのようになじみのないものは、リーフレットなど販促商材がそろっていないと選ばれにくいんです。営業の担当者が『ぜひメニュー化したい』と頭を下げてくるぐらいのタイミングまで待とう。そう思って、試作品は冷凍保存しました」
すると、好機は思ったよりも早くやってきた。
翌年、夏のカレー戦略を強化することになり、先の「カレーストックトーキョー」の開催も決定。新商品をいつもより多く出すことになった。満を持して冷凍保存した「カシューナッツのホッダ」を試食会に出すと、前年と打って変わり、満場一致でメニュー化が決定。カレー強化の施策によってコスト面よりも味に目が向けられたのだ。
もし、前年にゴリ押しでメニュー化していたら、「カシューナッツのホッダ」は高コストの不人気商品というレッテルを貼られて、永遠にお蔵入りしていたかもしれない。生み出した商品を好条件で売り出せるようにする。それも彼女が担う役割なのだろう。
そこで、最後にズバリ、聞いてみた。ヒット商品を生むための心得とは?
「私の場合、期日(完成の期限)が決まったメニュー開発をする以外に、いつかメニュー化したい長期的なスパンのストックを持つように心がけていいます。そうすると必要なときに取り出せて、気持ちにも余裕ができるんです。あとはとにかく自分が楽しむこと。自分が楽しいと感じなければ、お客さまの共感は得られませんよね」
これからも台湾、ベトナム、スペインなど旅のスケジュールはめじろ押し。旅先での新たな出会いから、どんなカレーが生まれるのか。楽しみに待ちたい。