パワハラ規制に反対するのは誰なのか

厚労省の審議会の焦点はパワハラやセクハラ行為をどのような法令によって規制していくかが最大のポイントになる。前述の検討会の報告書によると、職場のパワハラ防止の対応策案として以下の5つが示されている。

(1)パワハラが違法であることを法律に明記。行為者の刑事罰による制裁、加害者への損害賠償請求ができる。
(2)事業主にパワハラ防止の配慮を法律に明記。不作為の場合、事業主に損害賠償を請求できることを明確化。
(3)事業主に雇用管理上の措置の義務づけ。違反すれば行政機関による指導を法律に明記する。
(4)事業主に雇用管理上の一定の対応を講じることをガイドラインにより働きかける。
(5)職場のパワハラ防止を事業主に呼びかけ、理解してもらうことで社会全体の機運の醸成を図る。

最も厳しいのが、(1)の刑法上の刑罰であり、次に(2)の損害賠償を請求できる規定だ。先に述べた世界銀行の調査で多くの国が採用しているセクハラ禁止規定と同じ内容である。そして(3)が現行のセクハラ規制と同じレベルであり、(4)は法的拘束力を持たないガイドライン、(5)は現状と変わらず、何もしないに等しい。

世界標準がハラスメントを禁止する(1)と(2)であることを考えると、最低でも(2)の規定を導入すべきだろうと思う。ところが、検討会の報告書によると、「事業主に対する雇用管理上の措置義務を法制化する対応案を中心に検討を進めることが望ましいという意見が多く見られた。一方、同案の実現には懸念があり、まずは事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示すべきという対応案も示された」と述べている。

つまり、法律にパワハラの禁止規定を設けるのではなく、セクハラと同じ事業主に対する措置義務の法制化にとどめるだけではなく、拘束力のないガイドラインの導入すら提案しているのだ。

いったい誰が法制化に反対しているのか。検討会は学者などの有識者のほか、労働組合の代表や経済界の代表で構成されているが、検討会の議事録を見ると、学者などの有識者や労働組合の代表は少なくとも(3)の事業主に対する措置義務の法制化には賛同している。(4)を主張しているのが経済界の代表であることがわかる。

例えば、日本商工会議所の杉崎友則・産業政策第二部副部長はその理由についてこう述べている。

「具体的にどのような行為がパワハラに当たるのかという判断が難しいということもありますし、従業員の方にパワハラの被害を訴えられた場合の事実関係の認定も難しいということで、企業の担当者の方が対応に苦慮しているという意見もありました。(中略)特に中小企業の現場では大いに混乱が起きるのではないかと考えております。すので、このガイドラインを策定して周知していくことが現実的ということです」(2018年3月16日、第9回「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」議事録)

要するに何がパワハラで、パワハラでないかが明確ではなく、事実関係の認定も難しいのでガイドラインにとどめておけと言っている。しかし、セクハラの措置義務ではセクハラに関するガイドライン(指針)でどういう場合がセクハラに当たるのかが示され、それが会社の就業規則にも明記されているはずだ。同様にパワハラについても指針が出るのは間違いない。何より、ガイドラインだけでは事業主に強制できないので、無視する企業も出てくるだろう。結果的にパワハラ防止の実効性を失うだろう。