理想の上司は「人間的な隙を見せながらも信頼される人」

──中国での駐在経験のどんな点がいま役に立っていますか。

多様な人材でチームをつくるため、徹底したコミュニケーションに取り組んだことです。当社の場合、営業やSE、メンテナンス等のメンバーがチームをつくりお客様に対応します。そこには日本人と中国人が混在し、中国人でも日本語を話せる人もいれば英語だけの人もいました。そういう環境なので、私は責任者として徹底的なコミュニケーションをとることを心掛けました。

四半期ごとに戦略会議を朝から晩まで全員参加で開催し、終わってからも懇親会で引き続き話をしました。お互いに意見がぶつかり合って喧嘩のようにもなりましたが、多様な人たちがわかり合い、みんなでチームをつくるためにはそれくらいの喧々諤々の議論が必要でした。

この会社は最初、100人くらいの陣容でしたが、7年後に帰任するときには500~600人の規模になりました。これからはグローバルに連携してビジネスが進んでいきますから、多様な人材をマネジメントする経験が非常に重要になってきます。

──最近の傾向として若手はあまり本音を語らないと言われます。そういう人たちをどうリードしますか。

大きな組織の中にいるとその傾向が出やすいので、大組織の1つの歯車的な仕事ではなく何らかのプロジェクトを立ち上げたりして責任者を任せ、リーダーとしてまとめ上げてもらう。そうすれば自然に自分の意見を出していくようになります。

大きな組織の中で任せても、優秀な人はいろいろなしがらみの中で周りを慮ってしまいます。それはよくないと言っても、現実問題として周囲に配慮しないで仕事を進めることは難しい。しかし活躍単位を小さくすると当然、自分の意見を出し、通していかないとチームを率いることができません。自然に自分の意見を出すチャンスを与えていくことが大切です。

──これまで自分を育ててくれたと思える上司はいましたか。

入社して最初の上司は非常に人間的な魅力に溢れた人で、自分にはなかったものを態度で示してくれました。

お客様とゴルフに行ったはずの翌日、私がお客様を訪問したら「最初のハーフに遅れてこなかった」と怒られたこともありました。どうやら前日飲み過ぎたようです。でも連絡してお詫びに上司がやって来ると、お客様は「いいよ、そんなときもあるでしょう。じゃあ一杯行きますか」と。

私はもともと理系大学出身でSEになるものと思っていました。営業に配属されるとは思ってもいませんでしたから、最初は自信がありませんでした。でも人間的な隙を見せながらもしっかり信頼されている上司の姿から、営業として必要な能力を教えてもらうとともに、「20年後、ああなっていたい」と思いました。