「負ければ個人で100億円」。でも大阪にとっての利益はどっちか?

このメルマガでも何度か触れたけど、僕が大阪府知事に立候補する直前に朝日新聞が、大阪府のでたらめな会計操作をスクープ。使ってはいけない基金を5500億円も流用して、その基金を回復するめども全く立たない状況だった。そのおかげで、僕は就任直後から財政再建にひた走り、就任後約5か月の2008年7月に年間1100億円の収支改善を行う財政再建案をまとめ上げ、それを実行した。

当然その間、府庁舎の新規建設などはストップ。でも、これが政治行政の現実なんだろうけど、いったん財政再建案がまとまると、また府庁舎新規建設の話がくすぶり始めてきた。

他方、今のボロボロの大阪府庁舎も何とかしなくてはならない。さらに、財政再建の後は大阪の成長策だ。大阪の成長のためには、負の遺産とされている大阪のベイエリアを活性化させる必要がある。このあたりをグルグル思考させていくうちに、一つのアイデアが思い浮かんだ。

大阪市が1200億円ほどかけて建設した超高層ビル。大阪ベイエリアのランドマークとするつもりが、行政主導によるベイエリアの開発に失敗して、超高層ビル事業が破たん。1200億円かけたビルが、100億円以下で取引されるという話も耳に入ってきた。

大阪府が、大阪市の超高層ビルを購入する。新規大阪府庁舎の建設を止めて、大阪府庁舎をそのビルに引っ越しさせる。それと併せて、今はぺんぺん草が生え放題の大阪ベイエリアを活性化させていく。当時の役人や大阪府議会議員からすると、前代未聞、驚天動地のアイデアだった。

そしてこのアイデアを実現していく中で、大阪維新の会が誕生した。さらに現在、このベイエリア部で日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)や大阪万博の誘致がされようとしている。今の大阪政治の根っこの根っこが、このWTCビルという超高層ビルの購入であった。今回の台風によってWTCビルのエレベーターが止まり、府庁業務に支障が出たらしいが、あのときにWTCビルの購入をしていなければ、大阪維新の会も、日本維新の会も誕生せず、そして統合型リゾートや大阪万博の話も何もなかっただろう。もっと言えば、今、大阪で行われている様々な斬新な政策も実現されていなかっただろう。

WTCビルの購入を決めるための大阪府庁内での膨大な会議において、住民訴訟リスクのことも散々忠告を受けた。

「負ければ100億円単位で知事が責任を負わされますよ」

この忠告を乗り越えるために必要な政治家の能力は、憲法と法律との対話能力だ。僕は孤独に、憲法・法律と対話した。役人の方から住民訴訟で負けることはありませんとは誰も言わない。負けるリスクしか言わない。

普通の感覚なら止めておく方が得だと判断するだろう。そのリスクを負うことでの見返りは何か? 個人としては何もない。ただ新規大阪府庁舎の建設費を止めることができ、大阪のベイエリアが活性化するという大阪の利益のみだ。その利益のために、個人の100億円をかけるか。

僕が憲法・法律と対話して出した結果は、GOである。もちろん憲法・法律と対話することで、自分がクリアしなければならない条件も見えてきた。その条件を満たすために、大阪府の優秀な官僚組織に動いてもらう。

このように偉そうに言っているけど、96億円の訴訟を打たれることは、やはりプレッシャーになる。負けることはない、大丈夫だと自分に言い聞かせ、自分の憲法・法律との対話能力を信じていたが、それでも裁判の結果なんていうのは100%予測できないからね。

しかし、今回、住民訴訟では勝てた。そして台風によるWTCビルの不具合があったにせよ、このWTCビルの購入があったからこそ今の大阪政治がある。自分の憲法・法律との対話能力に間違いはなかった。相手は上告をしてくるかもしれない。しかし上告審は憲法判断をやる場なので、まず控訴審の判決がひっくり返ることはない。破産することは免れそうだ。

(ここまでリード文を除き約3200字、メールマガジン全文は約8600字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.118(9月4日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【政治家と憲法〈1〉】なぜ僕は知事時代、巨額の訴訟リスクに負けずWTCビルを買収できたか》特集です!

(写真=iStock.com)
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