「零細企業だからって、バカにするな」

すでに原稿はすべてフィックスし、あとは掲載を待つばかりとなっていた。つまり、我々の業務はすでに終了している状況だった。「やり尽くしてきた」という表現を「やり続ける」に変更する作業も終わっている。Y嬢はこの営業担当の発言を私に淡々と伝え、「変な人だね」と軽く愚痴る程度で流そうとしていた。もう納品が済んだ案件だし、相手の発言は自分が飲み込めばいい……そんな雰囲気だった。

その姿を前に、私はこの担当者と縁を切ることを決めた。大切な我が社の社員がそこまでヒドいことを言われて、上司として黙っていられるわけがない。私はすぐにその担当者に電話をし、こう伝えた。

「ウチの社員にずいぶんとヒドいことを言ってくれたそうじゃないですか。オレらが零細企業だからって、バカにしないでほしいんですけど。正直、彼女は優秀ですよ。たぶんアンタより仕事できますよ」
「もうオタクとは仕事したくないんで、今回で終わりです。客先で笑わない? はぁ? それなら“笑い女”でも“笑い男”でも、なんでもいいからバイトで雇って、会議に連れていけばいいんじゃないですか? もう付き合いきれないです。さようなら。カネだけは事前に決めた額をちゃんと払ってくださいね」

「目先の売上」より「心の平穏」

その営業担当の筋の悪さは事前に聞いていたので、私も上司として、いつ相手に怒るべきかタイミングを計っていたところがある。要は、心の準備がすでにできていた。

その絶縁宣言以後、Y嬢はストレスフルなやり取りから解放され、のびのびと仕事に取り組めるようになった。毎月数十万円の売上が見込める案件を失ったのは事実だが、そんなことよりも心の平穏のほうがはるかに大切である。

「冷静に、かつ適切に怒る」ことは、穏やかな生活を送るために必要な、処世術のひとつといえるだろう。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・それまで従順だった目下の人間が突然キレてきたとき、「飼い犬に噛まれた気分」などと言っているようでは認識が甘い。目上の人間として、相手の感情を慮れなかった自分が悪いと思え。
・目上の存在から日常的にパワハラを受けている人は、自分の感情にフタをすることがクセになっている。もっと自分の感情に素直になって構わない。
・本気でキレるときほど感情的にならず、周到に計算して、冷静にキレるべし。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
(写真=iStock.com)
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