子供に「ジェンダーの壁」を考えさせる御三家中

そして今回の開成中の問題は、「専業主夫の父とキャリアウーマンの母」という点で、近年の傾向をさらに進めたものだと言える。問題文には次のような一節もあった。

「クライアントの名前や顔は一度会ったら絶対忘れないし(中略)大勢の人の前でプレゼンすることも、部下のミスのフォローも、私は誰よりもうまくこなせる自信がある」

主人公は、家事や育児は苦手でも、会社での仕事ぶりには自信をもっている。だが夫が絵で認められつつあることで、その自信にどれだけの価値があるのか不安になる。「私がこの家にいる意味ってなんなんだろう」というアイデンティティの揺らぎを、小学生に読み解かせようとしているわけだ。

ちなみに、この物語はその後、次のように展開する。

夫は、個展を開催する京都から電話をかけ、卵焼きのアドバイスをした上で、妻に優しく語りかける。「がんばったね、素敵なお母さんじゃないか、ちっともダメじゃないよ。朝美のそういうまじめで純粋なところ、好きだよ」。主人公はその言葉に救われ、「輝也の絵、たくさんの人に見てもらえるといいね」と言えるようになる。

きっかけがあって、マイナスからプラスに変化するという構造はオーソドックスだ。しかし、“ジェンダーの壁”というテーマは、小学生には難しいだろう。このテーマは「女子御三家」のひとつである桜蔭中学でも2015年に取り上げられており、難関校を中心に増えている。

次に、開成中の国語の物語文に(2)「インスタグラム」という言葉が出てきたことについて。これも最近の傾向で、インターネットに関する言葉が中学受験の世界でも増えている。

桜蔭中の試験では「ツイッター」という言葉も登場

たとえば2018年の桜蔭中の国語では、『ひとまず、信じない。情報氾濫時代の生き方』(押井守著)というエッセーが取り上げられ、「インターネットにおいて、フェイクニュースができあがってしまうこと、そして広がってしまうことの理由について、本文をふまえてくわしく説明しなさい」という問題が出た。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AdrianHancu)

問題文には、ツイッターの投稿もだれの投稿かによって情報の信頼度が異なることや、そもそも何らかの意図をもったニセ情報である可能性も捨てきれないとある。

中学受験の国語の問題で「情報リテラシー」に関する問いは定番ではあるものの、フェイクニュースを流す意図まで、小学生に説明させる時代になっているのである。

今や、インターネットのことを知らずに、中学受験に臨むことはできない。ましてや、桜蔭中の入試問題では「ツイッター」に注もついていないのである。小学生が当然知っている語彙として出題されている。

前出の開成中の入試問題では「インスタグラム」や「フォロワー」に注があったが、これもいずれはなくなっていくだろう。

ちなみに「フォロワー」の説明は「読者登録をしている人」となっていた。別の男子校では2018年の入試問題で「投稿者を支持・応援している人たちのこと」と説明していたが、フォロワーとは必ずしも「支持・応援している人」とは限らないので、開成のほうがより的を射た表現と言えるだろう。