「おびき寄せて食いついたら、しめたもの」。そういたずらっぽく笑うのは、開成中学・高校の校長・柳沢幸雄氏だ。ゲーム三昧で本をまったく読まない子に親はどうするべきか。校長は「本の虫にするには撒き餌が大事。親が子に与えるのは必ずしも真面目な小説でなくてもいい。子どもが好む漫画やゲーム攻略本でもいい」と語る。その作戦の神髄とは――。

※本稿は、『プレジデントFamily2018秋号』の特集「東大生192人 頭のいい子の本棚」の記事を再編集したものです。

開成高校・柳沢校長は「本を読まない子」だった

教養や語彙力をつけるため、子供には読書家になってほしい。多くの親がそう願っているだろう。だが、ゲームや無料動画など、魅力的な娯楽が身の回りにあふれている現代。子供の関心がなかなか本に向かわず、頭を抱えている向きも多いのではないか。

※『プレジデントFamily2018秋号』より。子供を本の虫にするには、親が楽しそうに読書する姿を見せることも重要。「落語の本を読んで笑ったり、夫婦で本の内容について話し合っていたら、子供も自然と興味を示します」(柳沢校長)

しかし、東京大学合格者数トップを誇る開成中学・高校の柳沢幸雄校長はこう断言する。

「子供はきっかけさえあれば、ある日、突然、読書をするようになるので焦らなくて大丈夫です」

実は柳沢校長自身が、「小学生時代はまったく本を読まない子供だった」という。母校の開成学園の校長になる前、東京大学やハーバード大学で教鞭をとってきた知的エリートであるだけに、幼い時から読書家だったに違いないと予想していたが、違った。

「商いをしていた生家には、本が一冊もなかったんです。だから、中学校に入るまでにまともに本を読んだことはありませんでした。最初に読んだのは中学1年生の時。学校の課題で読まされた『次郎物語』です。その時は、長い文章を読むことに慣れていなかったので苦行でしたが、同世代の主人公に感情移入できました。へー! こういう世界があるんだ、と驚いた気持ちは今でも鮮明に覚えています。次に自分で夏目漱石の『坊っちゃん』を買って読んだら、おもしろくて止まらなくなりました」

「漫画だって、ゲームの攻略本だって立派な読書です」

柳沢校長がハマったきっかけは文学作品だったが、本のジャンルはなんでもいいという。

「親が『読書してほしい』と言った時に、イメージしているのは活字が並んだ文庫本のようなものかもしれません。でも、それは間違い。読書とは、字を読むこと。大切なのは、何を読んでいるかではなく、楽しんで読んでいるのかということ。本人が楽しんで読んでいるなら、漫画だって、ゲームの攻略本だって立派な読書です。それを無理に活字ばかりの本に誘導しようとすると、立派な本ギライが育ちます。人間は楽しいことしかやらないから、無理強いをしたら、絶対にダメです」