やるべき改革の前提条件が整った。本番はこれから

【塩田】2度目の安倍政権のここまで5年半の経済政策をどう採点していますか。

【石破】アベノミクスの「第一の矢」「第二の矢」は期待通りの効果と成果を上げたと思います。円が安くなり、輸出企業が儲かり、企業は史上最高収益を計上しています。外国人投資家には日本の株はお買い得になって、株価も上がった。有効求人倍率も1を超えましたが、人口の多い団塊の世代が大幅にリタイアした影響なので、これはある意味当然ともいえるでしょう。

株価上昇、企業の最高収益、有効求人倍率のアップの三つの事実は、それの成果でもありますが、やるべき改革の前提条件が整ったというべきで、本番はこれからだと思っています。この前提をつくった政策も、どこまでも続けられるわけではない。そのことをよく認識をしなければいけないと思います。

【塩田】「第一の矢」の異次元の金融緩和については、出口論が議論になっています。

【石破】金融政策については日本銀行の専権事項ですから、いま私が論じるべきことではないでしょう。しかし異次元の金融緩和がどこまでも続くわけではありません。金融緩和と財政出動によってつくった踊り場的な状況、一服感があり、多少の余裕がある状況を最大限に生かして、構造改革を推し進め、民間と地方の生産性をいかに上げるか。そこに官民挙げて注力すべきだと思います。

むしろ政策目標とすべきは、潜在成長率の上昇です。急速な人口減少と高齢化の中でも、GDP(国内総生産)を増やすことはできるはずです。社会保障制度の維持のために消費税が果たす役割は大きいと思いますが、まずは国民の幸せを実現するような社会保障制度に設計し直すことが急務です。誰も幸せになっていないことで医療費や介護費が使われていないだろうか、その視点で制度全体を見直す必要があります。そして消費税率が上がっても、それを上回る経済の成長と賃金の上昇があれば、問題にはならない。税率のアップを可能にする経済状況をどうつくるかです。そうなって初めて、不安なく消費税の議論ができるようになると思います。

【塩田】消費税は安倍政権での2度の増税先送りの後、2019年10月から税率10%への引き上げが予定されていて、実施するかどうか、政府は遅くとも今年、決断しなければなりません。実施可能な経済状況にならなければ、今度も先送り、または中止となりますか。

【石破】経済状況から見て可能なら、私は10%に上げるべきだという考えです。今回、先送りをしたら、日本の財政に対する信頼がなくなるケースもあり得る。ですが、個人消費や地方の設備投資、社会保障改革の道筋を示さずに、10%に上げるのは、誰が政権を担っていても、やってはいけないことだと思います。

石破茂(いしば・しげる)
衆議院議員・元自民党幹事長
1957(昭和32)年2月生まれ(61歳)。鳥取県八頭郡郡家町出身。父は建設事務次官、鳥取県知事、自治相などを歴任した石破二朗。鳥取大学付属中学、慶応義塾高、慶応義塾大学法学部法律学科を卒業し、三井銀行(現三井住友銀行)に入行したが、81年、父の死後に田中角栄元首相の強い薦めで政界進出を決意する。木曜クラブ(田中派)事務局勤務の後、86年の総選挙に鳥取全県区で初当選(以後、鳥取1区も含め連続11回当選)。93年に政治改革関連法案に賛成して自民党を離党し、改革の会、自由改革連合を経て新進党の結党に参加した。96年に離党し、97年に自民党に復党。2002年に小泉純一郎内閣で防衛庁長官、07年に福田康夫内閣で防衛相、09年に麻生太郎内閣で農水相を歴任した。09年、野党転落後の自民党の政調会長に。12年に安倍晋三総裁の下で幹事長となり、14年に安倍内閣で地方創生担当相に転じた。16年以後は無役。自民党総裁選は過去に2度、08年(5候補の5位)と12年(決選投票で惜敗)に出馬。自民党復党後は額賀(福志郎)派に所属したが、09年に離脱し、無派閥を経て、15年に石破派(水月会)を結成した。著書は『政策至上主義』(新潮新書)など多数。趣味は鉄道(乗り鉄)、戦前の軍艦マニア、プラモデル、こだわりカレーづくりなど多彩。若年層に隠れた根強い支持がある。
(写真=時事通信フォト 撮影=尾崎三朗)
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