安倍政治との違いは「対立より対話」「共感と納得」
【塩田】トップに立ったとき、どんな政治を目指す考えですか。安倍政権、安倍流政治との違いはどんな点ですか。
【石破】それは「対立より対話」です。安倍政権においてはともすれば、対立を際立たせ、対決姿勢を明確にするという傾向があります。衆参両院で与党が3分の2を持っているから、法案は通るし、予算も成立する。それも背景にあるでしょう。
私はそこには違和感を抱いています。32年間、国会議員として議席をいただき、閣僚も何度か経験する中で、私は野党の主張を丁寧に聞こうと努めてきました。野党議員も憲法に定められた全国民の代表者であることを忘れてはいけない。政府は無謬ではない。法案も予算も修正してこその議会という面があると思います。
小泉純一郎内閣で防衛庁長官を拝命したとき、社民党、共産党以外は全部賛成という形で、有事法制が通りました。イラク特措法もテロ特措法の延長も、野党は反対しましたが、国民の過半数の支持を得ました。これが私の原体験です。担当相として「石破さんの答弁はもういいです」と言われるくらい、国会で丁寧に説明し、街頭にも出て説明した。それが大事なことだと思っています。「対立よりも対話」「共感と納得」がキーワードです。
現在は 100年に1度の転換期です。経済成長の要素として人口と資本と技術力がありますが、このままいけば80年で人口が半分になる上、高齢化で医療費の増大も懸念される。そうすると、資本投下も今までと違う局面となります。高齢者の貯蓄も使われるようになるでしょう。「そのとき批判があっても、後世に評価されるならいいではないか」とよく言われますが、 100年に1度の大変化の時代で、後世に分かってもらえればいいというような悠長な話ではありません。今年の通常国会で成立した働き方改革関連法案やIR(統合型リゾート)推進法案にしても、法案は通りましたが、国民の理解が多く得られている状況ではない。私は1人でも多くの国民の理解の下に、法案や予算を成立させ、同時に多くの国民の下でそれが実行されることが、今の日本に必要なことと思っています。
【塩田】現在の日本は歴史的に見てどんな状況にあると認識していますか。これからの日本について、石破流の将来像とビジョン、そこに至るシナリオをどう描いていますか。
【石破】私は水月会(石破派)をつくったとき、「インディペンデントでサステナブルな国をつくりたい」と話しました。独立性のある持続可能な国家です。つまり、裏返せば、今の日本はインディペンデントでもサステナブルでもないのではないかということです。
一言で言えば、高度経済成長期、人口膨張期のモデルから脱却しなければなりません。大量生産・大量消費ではなく、少量・多品種・高付加価値にならなければいけない。それは円安や株高だけでは実現するものではないと思っています。
経済成長の要素として人口、資本、技術力があると言いましたが、人口は当面増えない状況下では、資本力、そして技術力がGDP(国内総生産)を向上させるカギとなります。労働者の一人当たり生産性を上げるには個々のスキルを上げるべきだが、現状の長時間労働はスキルアップにつながっていない。加えて、能力を上げる機会に恵まれない非正規労働者の割合が高止まりしています。これから先は、富める人だけ、富める地域だけが富むというやり方では日本経済全体のボトムアップにはつながらない。アンダー・クラス、インビジブル・ピープルと言われるような層にも光を当てなければ、決して経済は伸びません。一人ひとりの能力と生産性を高めるために、一人ひとりの労働者、国民をどれだけ大切にするかが経済の行方を左右すると思っています。