プロセスを語る生き証人を失った

これだけ立て続けに大量の死刑を執行したことは大きな疑問だ。政府の中でどのような議論を経て今回の執行が決まったのかを明らかにして、死刑制度の在り方について国会できちんと議論してほしい。

一連のオウム真理教の事件で、安倍政権がわずか1カ月足らずの間に前代未聞の13人という死刑執行を実行したことに対する沙鴎一歩の主張である。

7月26日、東京都足立区のオウム真理教の後継団体「Aleph(アレフ)」の施設前に集まった報道陣(写真=時事通信フォト)

7月26日、地下鉄サリン事件などオウム真理教による事件で殺人などの罪に問われ、教団元幹部ら6人の死刑が執行された。松本智津夫元死刑囚(執行時63歳、教祖名・麻原彰晃)を含む7人の刑はすでに20日前の6日に執行されている。これで確定死刑囚13人全員の執行がすべて終わったことになる。

ジャーナリストの江川紹子さんは、NHKニュースで「とうとうこういう日が来てしまったという感じだ。死刑囚だった人たちは、オウム事件の生き証人でもあったと思う。専門家が話を聞いて、この事件を研究し尽くして、そこからいろいろなものを学んでいくことが必要だったと思う。大きな区切りではあるが、これでこの事件が終わったとは思わない。今も苦しんでいる被害者が大勢いるし、事件から学ぶべきことは学んでいかなくてはいけない」と述べていた。同感である。

しかしながらいまの安倍政権はオウム事件の調査や研究を続けるつもりなどまったくないだろう。オウムの大量死刑執行について法務省幹部らは「平成の犯罪を象徴する事件は平成のうちに決着を付ける」と語っていると報じられている。そうした発言が裏付けるように、来年の天皇陛下の退位、改元、それに2年後の東京オリンピック・パラリンピックにかこつけたテロ抑止ぐらいしか、念頭にないと思われるからだ。

死刑執行で幕引きにしてはならない

7月26日の2回目の死刑執行について、東京新聞と毎日新聞、そして産経新聞がそれぞれ社説のテーマに取り上げている。いずれも27日付朝刊で、扱いは1番手の社説だ。

東京新聞は「制度の在り方の議論も」という見出しを付け、リードで次のようにまとめている。

「オウム真理教事件の死刑囚六人の刑が執行され、事件の死刑執行はすべて終わった。だが、日弁連などは死刑制度の廃止を求める声明を出している。不透明な制度の在り方などの論議は必要である」

日弁連のようにいますぐに死刑制度を廃止すべきだとまでは言わないが、少なくとも議論は必要である。

与野党問わず、超党派の形で死刑に詳しい国会議員が中心となって問題点を提起すべきだ。国会の傍聴などで私たち国民もその議論にできる限り参加し、死刑の是非を社会全体で考えたい。