7月6日にオウム7人の死刑が執行された後、15日付のこの連載では冒頭部分で「確かにオウム事件の衝撃性はとてつもなく強かった。だが、その衝撃性に気を取られることなく、私たちひとりひとりが冷静にオウム事件とは何だったかを自らに対して問い続けることが重要だと思う」と指摘し、「たとえばなぜ、高学歴の若者たちが本来の歩むべき道を外れてオウム真理教に加わり、他に類を見ない罪を犯したのか。これを解明する努力を怠ってはならない。死刑制度の是非は別として、死刑執行が幕引きではない」と訴えた。
江川氏も強調しているが、死刑執行で幕引きではないのである。
法務省の対応は「不透明」のひと言に尽きる
東京社説は次々と疑問点を挙げていく。
「ある同省幹部が『平成の事件は平成のうちに』と語ったと伝えられる」
「来年の天皇陛下の退位を念頭に置いた発言だろうが、それにしてもなぜオウム死刑囚に限っての一斉処刑なのかの答えにはならない。前回は元代表の麻原彰晃元死刑囚やサリン製造役が中心で、今回は林泰男死刑囚ら地下鉄サリン事件の散布役が中心だった」
「法務省は一連の執行順序についての理由をほとんど説明しないでいる。不透明だといわざるを得ない。『執行は当然』という遺族の方々の心情はもっともである。それでも心神喪失が疑われたり、再審申し立てやその準備の段階にある場合はどう判断しているのか、それを国民に説明しない姿勢には疑問を持つ」
なぜオウムだけ「一斉」なのか。どうして「製造役」と「散布役」を分けたのか。「心神喪失の疑い」や「再審申し立て」を行っている死刑囚についてはどう考えたのか。東京社説が指摘するように、法務省の対応は不透明である。
「日本だけが死刑を忠実に実行している」
さらに東京社説は「死刑は国家権力の最大の行使でもあるからだ。一〇年の千葉景子法相時代は報道機関に刑場の公開をしたこともあるが、それ以降はそんな雰囲気も消えてしまった」とも書く。これまで国が死刑制度の是非を問う特定の行動をしたりすることはほとんどなかった。それゆれオウム大量死刑をきっかに国民的な議論にするべきなのである。
東京社説は世界の死刑制度についても言及する。
「世界百四十二カ国は死刑の廃止・停止であり、欧州連合(EU)に加盟するには、死刑廃止国であるのが条件になっている。OECD加盟国でも、死刑制度があるのは日本と韓国・米国だけだ。でも韓国はずっと執行がない事実上の廃止国である。米国も十九州が廃止、四州が停止を宣言している。つまり、死刑を忠実に実行しているのは日本だけなのだ」
「日本だけが死刑を忠実に実行している」とまで皮肉って書かれると、安倍政権も放っておけないだろう。今後、安倍晋三首相がどう動くのか、注目したい。
最後に東京社説は駄目押しする。
「国連からは死刑廃止の勧告を何度も受け続けている。もっと国際的な批判を真面目に受け止めた方がよかろう」