退職後に「手打ちそば」で食っていけるのか?

最初のうちは、先輩のペットシッターに同行します。手順を覚えると、徐々に1人で仕事を任されるようになりました。その後、思い切って本業の会社を辞め、自分の会社を作りました。ノウハウがわかっているからか、最初から事業は順調だったそうです。

ペットの世話をしている様子を写真に残したり、それを飼い主に送ったりするなど、気の利いたサービスが好評を得て、現在も繁盛しています。彼女いわく、「収入は食品メーカー時代の約半分くらいだけど、ストレスフリーです」とのこと。現状では会社を大きくすることは考えておらず、事務のスタッフを1人だけ雇ってスケジュール調整など頼んでいます。

このように、自営業やフリーランスとして働く場合は、まず、副業・ダブルワークからはじめてみるといいでしょう。忙しくなりますが、他に収入源があることで、ビジネスとして成り立つかを、冷静に考えることができます。

また、起業をする際は、「初期投資が少ない(かからない)」「在庫管理が難しくない(いらない)」という職種を選ぶとリスクが少なくなります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/key05)

一方、リスクが高いのは、飲食店経営です。

日本政策金融公庫の「新規開業パネル調査」(2016年)における業種別廃業状況では、2001年から2015年の全業種廃業率が平均10.2%でした。廃業率ワースト5は、5位から順に「卸売業」(11.5%)、「教育・学習支援業」(12.5%)、「小売業」(14.5%)、「情報・通信業」(15.8%)、そして最も廃業率が高かったのが「飲食・宿泊業」(18.9%)でした。宿泊業も含めた数字ですが、全業種の中で、「飲食業」はもっとも高いリスクの仕事ということが言えます。

一般的に、飲食店は利益率が低いうえ、初期投資に多くのお金が要ります。メディアなどでは「退職して田舎で手打ちのそば屋をはじめた」「海の見える場所にレストランをひらいた」など、成功例が紹介されますが、実際の運営はなかなか厳しそうです。事前の準備をしっかり行い、最悪の場合を想定した事業計画を作る必要があります。

▼「1年で資産が10倍に」「株で月収30万円」

また、投資を副業として実施し、老後に備える人もいます。

今年5月、転職サイト運営会社のエン・ジャパンが行った「正社員3000名に聞く『副業』実態調査」によると、13%の人が「株式運用・FX取引・不動産投資を副業にしている」と答えています。

家計相談にくる方のなかにも、退職金で株式取引をしようと考えている人が少なくありません。1000万~2000万円のまとまったお金が懐に入ると、「もっと増やそう」という気持ちが高まるようで、「初めてだけど株取引をやってみたい」などとおっしゃります。

短期間での株式の売買やFXは、「投機」にあたります。

投機とは、お金を投じた先の「値動き」で利益を得ること。お金を投じる先の「価値」はほぼ変わらないため、参加者全員の損益の合計はゼロです。つまり、誰かの利益は、誰かの損失から生まれていることになります。

こうした投機で、長期的に利益を得ることは難しく、副業とはいえないと私は考えます。「1年で資産が10倍に」「株で月収30万円」といったたぐいの本や広告がありますが、誰でも再現可能な手法はありません。

誰もが不労収入のある生活にあこがれます。人生100年時代のこれからはなおさらのことです。しかし、それを実現するにはそれなりの知識の取得や経験が必要です。リスクがある投資は、万が一、そのお金がなくなってもいい額を投じるのが基本です。退職金や年金がなくなってもいいという方はごく限られた人ですから、長生き時代を「投機」で生き延びようとするのはやめましょう。

(写真=iStock.com、執筆協力=瀧健(ファイナンシャルライター))
【関連記事】
定年後に"趣味の飲食店"を始めた人の末路
7500万円タワマン買う共働き夫婦の末路
再就職せずに60歳で"隠居"した人の本音
熟年カップルの"ラブホ利用"が増えている
定年後の年金格差「約7735万円」の現実