子供には財産を残すべきなのか。平均で年6億円の所得がある富裕層の金森重樹氏は「2人の子供に、教育費をそれぞれ最低3億円以上かけ、それなりの財産も残すつもりだ」という。その判断には根拠がある。4000人以上の富裕層を対象にアメリカで行われた調査によると、「結婚や相続などで財産をもらった人」と「自力で稼いで資産を形成した人」の幸福度はほとんど変わらなかったからだ。「遺産と幸福度」の意外な関係とは――。

もらった資産と働いて得た資産、どちらが人を幸福にするか?

誰だって幸せになりたいです。

現代に伝わる西郷隆盛の肖像画の一つ(画像=『近世名士写真其1』国立国会図書館蔵)

読者の皆さんもそうでしょうし、僕もそうです。だから、この連載では、繰り返し幸福感を得られる「条件」について、国内外の調査統計や書物をひもときながら、考察してきました。

前回の記事では、貯蓄額と幸福の関連性について考えました。要約すると、このようになります。

●「富裕層になる途上の人」は年収を上げるよりも、貯蓄額を増やすほうが幸福度を高めることができる。つまり、たとえ年収が高くなくてもコツコツと貯めている人は幸福度が高い。

●「すでに富裕層である人」は、現在、お金持ちなので収入が上がっても、また何かのきっかけで貯蓄額が多くなっても幸福度にほとんど影響を与えない。つまり、お金持ちは蓄財に血道をあげてもあまり意味がない。

上記の結論は、ハーバードビジネススクールとマンハイム大学の研究者らが、2012年と2013年にある大手金融機関が4000人以上の富裕層を対象にしたアンケートを基に導き出したものです。

▼富裕層には「自力派」と「他力派」がいる

同調査では、別の切り口でも分析をしていました。

それは、富裕層を「(働かないで)結婚や相続などで財産をもらった人(他力の人)」と、「自力で稼いで資産を形成した人(自力の人)」に分類して、それぞれの幸福度を比較するというものでした。その結果は意外なものでしたが、その前にちょっと西郷隆盛の話をさせてください。

「児孫の為に美田を買わず」

NHK大河ドラマ『西郷どん』の主人公、薩摩藩士・軍人・政治家の西郷隆盛が残した漢詩に次のようなものがあります。

偶成
幾歴辛酸志始堅
丈夫玉碎恥甎全
我家遺事人知否
不爲兒孫買美田

これを僕なりに訳してみると……。

たまたまできた漢詩
何度もつらく苦しいことを経験してこそ、志ははじめて強固なものになる。
一人前の男たるもの、玉が砕けるように立派な最期であれば死はいとわず、
むしろ、瓦のようにつまらない人生を長く生きることは恥じるものである。
わが家の遺訓を誰か知っているだろうか。
「子孫のためには、肥沃な田畑を買って残すようなことはするな」

というものです。