西郷隆盛の「美田は残すな」は誤って解釈されている

この漢詩は、しばしば西郷の子育て論として「子供を堕落させる恐れがあるから田畑(財産)を残してはいけない」という意味に解釈されることが多いですが、誤りです。

これは西郷が大久保利通など政府高官たちに向けて、「私利私欲に走る(子供に田畑など財産を残そうとする行為を含む)ようでは志を遂げることはできない。志を果たすためには蓄財ではなくすべてのものを犠牲にする覚悟を持て」とメッセージを送ったものです。

一説には大久保が、明治維新の最高功労者の一人として、西郷に二千石の恩賞を与えた際に、西郷は「我家の家訓」という形で先ほどの漢詩を送り、やんわりと大久保を批判したともいわれています。

また、この漢詩の揮毫の際には「この言葉に違えるようなら、我は言行一致せぬもののそしりを受くるも可である」と伝え、事実、鹿児島の川邊郷で美田の売り物が出た際に、婦人が購入の話をもってきたのを断っています。

▼「資産の額と幸福度」との関係は?

では、明治維新から150年経過した現代の日本人は子供に財産を残しているのでしょうか?

日本銀行の金融広報中央委員会が発表した「家計の金融行動に関する世論調査(2人以上世帯調査)」(2017年)によれば、なんらかの理由で「子供に財産を残したい」と考える2人以上の世帯は61.1%と高い割合になっています。

10年前の2007年の同じ調査では64.5%でしたので、親が子に財産を残したいという気持ちにはそれほど大きな変化がないようです。日本の一般的な家庭の実態としては、「できれば子供に資産を残してやりたい」という親心があるようです。

では、その子供に残した資産が幸福につながるかどうか。

これについては、前出・富裕層4000人以上を調査したアンケートには次のような結果が残っています。資産の規模が、一般的な家庭とは異なりますが、参考に見てみましょう。

これによれば資産レベル1.5Mドル(1.65億円)の富裕層と15Mドル(16.5億円)の超富裕層の間では資産が10倍の開きがあるにもかかわらず、幸福度(人生満足度)は7段階で「5.79」と「5.84」で0.05しか違いません。