コツその1:働く意義や目的にとらわれすぎない
【奥田】先生は戦後から約70年間、勤務医としてフルタイムでたんたんと働き続けてこられました(*注1)。気の遠くなるほど長い仕事人生ですが、どんな意識や目的で仕事に取り組んでいたのですか?
【中村】仕事をしてきた目的は一言で言うと「食べていくため」です、当たり前やけど(笑)。常に働かんと食べていかれなかったから、ひたすら働いてきたんですわ。
今、精神科にはたくさんの悩みを抱えた人がきますが、最近多いのは「なんのために働くのか」と悩んでいる人ですわ。仕事の内容にやりがいがない、誰にも褒められない、人間関係がつらい、原因はそれぞれです。
事情は人それぞれなんやけど、率直にいえば「まじめすぎ」「大げさに考えすぎ」なところがあると思います。若い人でも、定年を迎えて再就職した人でも、「こんなのは自分のすべき仕事やない!」と悩んでいる人が多いんやけど、そんなに眉間にシワを寄せて働く必要があるんかなぁと思います。
そもそも、人がなぜ働くのかといえば、一番は生活のため。自分を食べさせていくため、家族を食べさせていくために働いているわけで、単純に「お金のために働く」ではいかんのでしょうか。働いてお金をもらって、自分や家族を食べさせているなら十分立派。自分の成長やとか、やりがいというのは、そのあとぼちぼち考えていけばええんやと思っています。
【奥田】先生は、仕事が大好きで大好きで続けてきたというわけでは、ないのですね?
【中村】私自身、戦後のどさくさにまぎれて医者になったくらいに思ってますし(*注2)、仕事が好きかといったら、恥ずかしながらそうでもない(笑)。
私は16歳のときに広島から大阪に出て医者になる勉強を始めたのやけど、それは家が子だくさんで貧乏やったから、どこかに嫁ぐか、さっさと働かないとならなかったからです。
医者になってからも、結婚して子どもが生まれて、このまま専業主婦になるのもええなぁ……と思っていたときに、旦那が家にお金を一切入れてくれなくなった(笑)。仕方ない、子どもたちのためにも働き続けないとあかん。