大学教員の仕事時間は上限に近い

「レジャーランド時代」とは異なり、学生が学習習慣を身につけて社会に出られるよう、大学自体も変わりつつある。出欠確認は厳しく、授業に出ていなければ単位は取れない。そもそも双方向型の授業が増え、サボることも難しい。

しかしそうした取り組みは一部にとどまっている。背景にあるのは、リソース不足だ。日本の大学教員は忙しすぎる。大学自体の予算が足りないため、スタッフを十分に雇用できておらず、学生指導に十分な時間が割けない。

高等教育に詳しい浦田広朗氏の論文「大学教員の時間使用と授業改善」(「大学・学校づくり研究」第5号)によれば、学期中における大学教員の仕事時間は週50時間を超える。これは、最も長時間働く年代である40代前半の有業男性の仕事時間を上回るものだ。この論文で浦田氏は、大学教員の仕事時間が上限に近いことから、教育の効果を上げるために必要な授業準備時間を十分に確保できていないのではないかと分析している。

「大学が効用を生み出すために最も大切なのは、学生が自己学習力をつけることです。社会に出て『役に立たない』と言われるのは、自己学習力をつけないまま卒業している大学生がいるから。しかし、学生が課題を解いて、自分ができないことに気づき、『学ばなきゃいけないんだ』と実感する体験を今の大学で与えられるかというと、教員に時間がないし、スタッフも絶対的に少ないのが現状です」(濱中氏)

大学の教育費は当事者しか考えない

スタッフの数を増やし、教員が教育に使える時間を増やすためには、予算が必要だ。だが、進学費用をはじめ、大学教育費の公的負担とその規模の問題をめぐる議論は盛んではない。濱中氏は、「大学の教育費に関心を持つ人が当事者に限られていることが原因だ」という。

「子どもがいない人や高齢者、お子さんが幼児や小学生の人は、大学進学費用について考えません。中学生・高校生のお子さんがいる人達だけは考えますが、現在、その人達は50歳くらいです。バブル期で親が学費を払える時代に大学に通っていたので、大学の進学費用は親が負担するのが当たり前だと思っています」