大学教育はエリートだけで十分という思い込み

濱中氏との共著『教育劣位社会』で、矢野眞和氏(東京工業大学名誉教授)は「教育の当事者であるか否か」による教育世論の違いを分析している。この分析では、世帯を「子どもなし」「高校を卒業」「中学生以下がいる」「高校生がいる」の4つに分類。「大学進学機会の確保」について聞いたところ、「税金が増えてもいいから積極的に進めるべき」または「どちらかといえば税金が増えてもいいから積極的に進めるべき」と回答した人の割合は、「高校生がいる」世帯が50.0%と最も高い一方、「子どもなし」は22.2%、「高校を卒業」は26.8%と低い数値にとどまっていた。

 この分析を行った矢野氏は、同時にエリート主義的大学観の問題点も指摘している。「学業成績の低い者の(進学)メリットは小さい」という思い込みがあるというのだ。大学教育はエリートだけで十分、という考えが主流であれば、税金で大学教育費を負担しようという議論は生まれない。

日本の大学進学率はOECD平均より低い

繰り返すように、大卒者を増やすことは、国の税収を増やすことになる。それではどこまで進学率を高めればいいのか。現在、日本の大学進学率は54.8%(平成29年度学校基本調査)。近年上昇してきているが、OECD平均には及んでいない。

濱中氏は「80%~90%という選択肢を検討すべきだ」という。念頭に置くのはアイスランドやスロベニア、ノルウェーなどの北欧諸国だ。これらの国の進学率は約70%~80%と高い。それには2つの理由があるという。ひとつは大学の学費が完全に無料であること。もうひとつは大学進学年齢が「18歳」と決まっているのではなく、学びたくなったときに、自由に学べるような社会システムが整えられていることだ。

※平成28年度 文部科学白書より抜粋。

「いつ学びたいかは人によって違うし、キャリアの中で学びたいことは変わります。このため進学率を高めるには、教育市場を流動化する必要があります。いつでも誰でも大学に行けるようにして、その時のお金はみんなで支える。北欧諸国はそうした考え方をもっているのです。日本は高度成長期から、高校卒業後に進学して就職する形になっているので、それを崩すのは難しいですが、本当にやろうと思えば変えられるはずです」(濱中氏)