カンヌ国際映画祭で最高賞・パルムドールを受賞した映画『万引き家族』。林芳正文部科学相は、国会で「是枝裕和監督を文科省に招いて祝意を伝えたい」という考えを示しましたが、是枝監督は「公権力とは潔く距離を保つ」として祝意を辞退しました。その真意はどこにあったのか。ライターの稲田豊史さんが分析します――。
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『万引き家族』

■製作国:日本/配給:ギャガ/公開:2018年6月8日
■2018年6月23日~24日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

興収で『そして父になる』を超えるのは確実

是枝裕和監督の『万引き家族』が6月8日の公開から3週連続で第1位となりました。4週目の週末(6月30日~7月1日)でも2位をキープし、粘り強い動員を見せています。カンヌ国際映画祭におけるパルムドール(最高賞)受賞の話題性などが後押しし、興収は既に30億円を突破。是枝監督の過去作品で最高興収だった『そして父になる』(2013年、興収32億円)を超えるのは確実となりました。

『万引き家族』は都会の片隅で暮らす貧困家族の日々を描く物語で、脚本は是枝監督の書き下ろしです。原作はありません。家族ぐるみの「万引き」で家計を補う5人家族のもとに、ある日虐待されている少女が加わり、家族の秘密が明らかになっていきます。

『万引き家族』の俳優陣はいずれも実力派ぞろいですが、大量集客が見込めるような人気アイドルはいません。また、予告編や宣伝からは良質なドラマであることは伝わりますが、「老若男女が誰でも理屈抜きに楽しめる、わかりやすい娯楽作」という打ち出しは一切していません(もちろん、そんな内容ではありません)。

にもかかわらず、本作が初動から勢いに乗ったのは、パルムドール受賞前後のメディア露出によって、「いま観ておくべき、ニュース性の高い作品」として、世間に強く印象づけられたからでしょう。

「日本もドイツのように謝らなければならない」

公開前後にあった『万引き家族』のメディア露出について、時系列で振り返ってみます。

4月12日、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に『万引き家族』が正式出品されることが報じられます。是枝監督作品としては5回目の出品であり、受賞への期待が膨らみはじめました。

5月17日、カンヌ入りした是枝監督の現地インタビューが「中央日報」の日本語版に掲載されます。ここで是枝監督は、日本では共同体文化・家族が崩壊しており、多様性を受け入れるほど社会が成熟していないと指摘。「残ったのは国粋主義だけだった。日本が歴史を認めない根っこがここにある。アジア近隣諸国に申し訳ない気持ちだ。日本もドイツのように謝らなければならない」と発言しました。

この発言に対し、ツイッターなどで「謝罪の必要などない」「世界に恥をさらすな」といった反発がありました。その中には、日本の貧困家庭を描写した内容が世界に発信されることで、日本という国が無用に“おとしめられる”と感じた人もいたようです。