――知行合一を実現するために必要なことは何ですか。知恵を絞ってポジティブな要因を見つけ出すというのは「知」の部分だと思いますが、現在の海運市況のなかで具体例を挙げていただくと?

たとえば、前述の原油の話にしても、需要減で海上の荷動きが停滞していますが、それが必ずしも原油を輸送するタンカーのマーケットの悪さに直結するとはかぎりません。なぜなら、原油の需要が冷えると原油の価格が下落するので、「安いから今のうちに買っておこう」という動きが出てくるからです。

大型の原油タンカーは世界に500隻ありますが、現在、そのうちの40隻が海上備蓄のために利用されています。高くなったときに転売する目的でタンカーに海上備蓄するトレーダーが現れてきているのです。こういう動きを捉えることが大切なのです。

つまり、一面的な見方だけでは駄目だということ。「世界的な不況→原油の需要急減→海上荷動きの減少」というような一面的な理解だけでなく、別の角度からも見ることができるかどうかが大切なのです。別の言い方をすれば、表層の一般的な流れとは違う動きも多様にキャッチして、状況の全体像を多面的・大局的に把握すること。ピンチのときほど、それが必要になってきます。

重要な数字を書き留め、大局観を掴む

――どうすれば異質な動きも敏感にキャッチし、大局的な把握ができるようになるのでしょうか?

私の場合は、あらゆる経済指標や関連する数字を手帳に書き留め、かつ記憶するようにしています。記憶していると数字が頭のなかで有機的に繋がって、無関係だと思っていた数値の相関関係に気づくなど、現状分析や将来予測の際に独自のデータを組み立てることができます。

一例を挙げて説明しましょう。

現在、中国の製鉄所が輸入する鉄鉱石の量が減少しています。この状況が続けば、当社にとってピンチが拡大することになります。

一方で、これまで中国は鉄鉱石の国内生産を毎年1億トンずつ伸ばしてきました。しかし、国産の鉄鉱石の品質は徐々に低下、鉄分含有量が30%以下に減っている。すると鉄分の単位当たりのコストは、輸入鉄鉱石のほうが安くなります。鉄分の含有率が2倍以上高いからです。

中国には約900の鉄鋼会社がありますが、これまで国産鉄鉱石を使っていた中小の会社も輸入に切り替え始めています。そうなれば、海運のニーズは依然として強い。数字に基づいたポジティブな見通しの一つです。