つまり体制保証など絵に描いた餅なのだ。体制を維持するために非人道的な弾圧を行えば体制保証は反故にされるだろうし、弾圧する前に軍や側近、反乱分子の手で葬られる可能性は高い。体制保証の付帯条件で亡命先ぐらいは用意してもらえるかもしれないから、そこで生き長らえるのが一番平穏な人生になりそうだ。

中国にしてもアメリカより信頼されているからポジションが得られると思ってしゃしゃり出ているだけで、金委員長を心底庇護する気はないと思う。中国は長兄の金正男氏を後継に据えようと画策していたわけで、正男氏や中国に近かった張成沢氏を無慈悲に殺した金委員長を快く思っていないだろう。

そうした“現実”を金委員長は理解していると思う。世界の独裁者の末路を見ていれば、体制保証が意味を成さないことも承知しているはずだ。それでもアメリカとの非核化の協議を選択したのはなぜか。

得意の時間稼ぎで、裏でこっそり核開発を進めるという見方もあるが、今回はそうではないと思う。北朝鮮は全米を射程に収めた新型ミサイルの開発に成功したと宣言した。しかしそれは弾頭に重たい核をつけていないICBMをロフテッド軌道で飛ばした飛距離を、一番遠くまで飛ばせる角度で撃ち出した場合を換算した仮定の数字にすぎない。アメリカ本土に届くかどうかの実証実験は行っていないのだ。

そのうえ、弾道ミサイルの先端に核弾頭を搭載して、狙ったポイントで起爆する技術となるとこれは相当に難しい。つまりアメリカに撃ち込む核ミサイルの開発が技術的にも時間的にも困難であることが判明したので、張り子の虎とバレる前に交渉材料に使ったのではないか。非核化協議はないものをあるように見せかける窮余の延命策ではないか、というのが私の推測だ。

在韓米軍撤収後に起こる、日本の危機

米朝首脳会談の主要テーマである非核化協議はどう進むか。トランプ大統領の単純な発想と記憶の短さからすれば、何を言い出すかわからない部分はあるが、商売人だから米朝交渉もディールととらえている。アメリカ本土に届くICBMを取り除く。そして核を放棄させる。アメリカにとって直接の脅威を取り除くことがディールの条件に織り込まれるのは間違いない。

非核化の手法についてはボルトン大統領補佐官が「リビア方式」の適用を言及している。リビア方式は検証可能かつ不可逆的な形で核放棄を先行して、核放棄の進捗状況を確認してから経済制裁を緩和して国交正常化に至る方法だ。

しかしカダフィの二の舞いを恐れる金委員長としては、リビア方式は受け入れ難い。段階的な核放棄とバーターの経済制裁解除を求めてくるだろう。トランプ大統領も「リビア方式は念頭にない」と語っている。

北朝鮮に弾道ミサイルと核を放棄させれば中間選挙にはプラスだが、ディールメーカーのトランプ大統領としてはそれだけでは物足りない。たとえばソウルに向けられた短距離弾道ミサイルや日本を射程に収めた中距離弾道ミサイルまで放棄させて完全武装解除を迫っても、トランプ的にはリーズナブルなディールではない。短距離弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルはそのまま保有を許す。となれば、日本や韓国は依然としてアメリカからミサイル迎撃システムを買わざるをえない。

アメリカの脅威を除去したうえに日本や韓国に(迎撃システム購入によってアメリカに)貢がせれば、「good deal」で中間選挙の大勝利は間違いなし、とこうなるわけだ。当然、トランプ大統領のディールに日本人の拉致問題は入っていない。アメリカの選挙民には関係ないからだ。