無能な上司の「不安」が火種に
他人を振り回す人は、その振り回し方がエスカレートする傾向がある。片田氏によれば、鈍感さというのも、ある種学習されるという。
「地位が上がると、もう気を使わなくてもいいと安心してしまうのです。すると、自分の言動が相手をどのような気持ちにさせるか、という想像力が働かなくなっていくのです」
無能な上司も、部下を振り回す可能性が高い。年功序列がいまだに残っている日本社会では、能力が低い人物でも社歴が長いというだけでポジションを得てしまうこともある。
「実は、本人も分不相応であることに気づいている場合が多い。他人から見くびられるのではないか、と不安を抱いている分、誰かを支配したくなるのです」
この「不安」は重要なキーワードだ。社会が不安定になってくると、「振り回す人」「振り回される人」が増えてくると、片田氏は話す。
「大手企業である東芝の解体や、三大メガバンクが行う大規模なリストラの報道に衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。これまでの社会システムが崩れかけ、資本主義が頭打ちになっている。そういった社会背景を受け、今、振り回す・振り回される関係がとても増えています。人に振り回されたり、逆に振り回したりするのも、根っこは同じで、今のポジションや、仕事自体を失うのではないかという不安があるわけですね」
仕事を失うかもしれない、という不安によって、上司だけではなく会社自体に振り回されてしまうことも起こりうる。
「会社と自分の関係を構造的に見た場合、その利益は相反します。会社は利益を上げたい。だから、安い給料でよく働いてくれる人が一番いいわけです。会社が理不尽なことを言ってきて、振り回されていると感じたら、戦う覚悟も必要です」
また、振り回す・振り回される関係が増えているもう1つの要因が、「自己愛過剰社会」だ。主にアメリカで行われてきた、自尊心を高め、自分を好きになる教育の結果だ。
「その象徴がトランプ氏であり、インスタ映えです。ある程度の自己愛は必要ですが、過剰になると、強い承認欲求や自分の過大評価につながる。それは他人を振り回す人、振り回されやすい人の両方を生むのです」